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2024.06.28

【実施レポート】「現地映像満載!最新中国エンタメレポート!」中国エンターテインメント研究プロジェクト特別講義第三弾

2024年6月7日、吉村 毅教授が立ち上げた「中国エンターテインメント研究プロジェクト」の一環として、デジタルハリウッド大学大学院は、特別講義「現地映像満載!最新中国エンタメレポート!」を開催しました。

今回は、中国での総フォロワー数600万人を超えるインフルエンサー山下 智博氏が自ら撮影した映像を参考にしながら、中国現地の最新エンタメ事情を紹介しました。

またゲストとしてお迎えしたのは、ストーリーレーベルノーミーツの元主宰で、オンライン演劇やイマーシブシアターなどの先進的な表現に取り組んでいる広屋 佑規氏です。山下氏とともに、日中の最新エンタメの違いや、今後若い世代から生まれてくるエンタメの在り方について考察していきました。

日中両国を魅了する体験型エンタメ、イマーシブシアター

特別講義の冒頭、広屋氏から日本の体験型エンタメ事情、山下氏からは中国の体験型エンタメの変遷について解説がありました。

広屋氏が、注目すべき日本の体験型エンタメとして取り上げたのは、脱出型イマーシブシアター(*1)『東京リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ』です。東京卍會のメンバーが生身の人間として登場し、雑居ビル脱出に向けて、謎解きをサポートしてくれます。

広屋氏は「参加者がただ『東京卍リベンジャーズ』の物語を観賞するのではなく、自分に役割があって物語に参加できる。トントンと肩を叩かれて“お前これ解けたのかよ”って登場人物に語りかけられて、キャストと一緒に物語を進められるので没入感がすごいんです」と紹介しました。

これに対し山下氏は「『東京卍リベンジャーズ』のようなIPとイマーシブシアターを掛け合わせられるのは日本ならではの強み」と話します。

ほかにも広屋氏は、店員が友達として接客してくれる「友達がやってるカフェ/バー」も紹介。

役者やモデルなどが店員として働いており、「来てくれたんだ、久しぶり!」「注文決まった?何にする?」と、まるで友達同士のようにカジュアルに話しかけてくれます。「2023年は、TikTokでショートドラマを見るような、インスタントに物語を体験できるエンタメがウケました」と、日本の体験型エンタメの事例を取り上げました。

一方中国でも体験型エンタメの人気が根強く、2010年代から人狼ゲームやリアル脱出ゲームなどが流行し始め、中国の動画配信サービス芒果TVの『明星大侦探』を機にマーダーミステリー(*2)がバズりました。また山下氏は「イマーシブシアターの金字塔と言われている『Sleep no more』が2016年に上海に常設され人気を維持しています」と話します。

中国では昔から、イマーシブシアターのような体験型エンタメについて研究が進んでいたことを話しました。

(*1)イマーシブシアター:2000年代にロンドンから始まったとされている体験型演劇のことであり、イマーシブは「没入」を意味する。演者は観客と同じ空間で演じ、観客が自由に移動しながら観劇する形式が多い。

(*2)マーダーミステリー:物語の登場人物になりきり、探偵役として犯人を捜したり、犯人役として逃げ切ったりして物語を進める推理ゲーム。

宮廷料理を味わえる劇場型レストラン

ここからは、山下氏が中国各地で体験した中国の最新エンタメを、映像とともに紹介しました。

最初に流れたのは、上海にある劇場型レストラン「宮宴」の映像です。レストランへ入店し着席する前に、漢服に着替える山下氏。このレストランでは古代中国の宮廷文化を体験でき、中国古代の衣装を身にまとったスタッフ、演者、お客さんがいる空間で宮廷料理を堪能することができます。

また山下氏は、上海から飛行機で約4時間のところにある、成都の劇場型レストラン「蜀宴赋」の事例も紹介。

「中国の北京、上海、成都などでは、古風な空間で伝統的な料理を楽しめるレストランがどんどん増えています。成都のレストランではいろいろなところにプロジェクションマッピングが映されて、舞台には芝居や歌、踊りを披露してくれる人が大勢出てきます。中国の歴代の王朝をテーマにしたパフォーマンスを見ながら、美味しいご飯を食べられるので、満足度が非常に高いんです。ちなみに、日本円でおよそ10,000〜15,000円で楽しむことができました」

『東京卍リベンジャーズ』のようなIPが豊富にある日本に対し、数千年分の歴史がある中国。コンテンツの源泉が各地域にたくさんあるということで、その土地に縁のある偉人・歴史・料理が組み合わさった体験型エンタメが増えてきていると言います。

ここで授業に参加している方から「日本の和食と伝統的なSHOWをこのような形で海外に持っていくとビジネスがうまく行きそうと思いますか?」という質問が届きます。

山下氏は「能や歌舞伎などをカジュアルなエンタメにすれば、うまくいくと思います。ただ、伝統芸能を若者向けのエンタメにアレンジする際、歴史的背景や所作などが間違っていたら、日本の場合叩かれてしまいそう。一方で、中国で流行している古風なコンセプトの劇場型レストランは、実はかなり現代風にリメイクされた演目を行っていて、細かい時代背景はぼやかされているらしいです。ただSNSを見ていると、それに対して批判的なコメントは少ないですし、隣りで見ていた中国の方も、“このショーをきっかけに若い人が伝統芸能に振り向いてくれて、細かいことは後で勉強すれば良い”と話してくれました」と回答しました。

富裕層の二世が中国のナイトライフを変革

続いて山下氏が紹介したのは、成都のとあるクラブです。一般的には、DJと客が一体となって音楽やお酒を楽しむイメージがありますが、成都のクラブではミュージカルやダンスショーが大音量で行われています。

山下氏によると、エントリーフィーは無料、テーブルに座った場合1テーブル約60,000円、総工費は約40億円。

「このような若者向けの飲食店やクラブを経営しているのは、富裕層の二世たちです。今は、中国の飲食業界で財を成した親世代が息子や娘を海外へ留学させ、彼らが中国へ戻って来たタイミング。グローバルな感覚を持った若者が、中国で何かやろう、親のお店を継ごうと、後継ぎと同時に巨額の投資がされている段階なんです」

まだ世界に見つかっていないトンデモ舞台『重慶1949』

「上海や深圳などは海外向けの施設がたくさんある一方で、成都や重慶などの中国西側で栄えている都市は、中国国内の人を楽しませるための施設がたくさんあります。日本人の理解が及ばないレベルのエンタメを味わいたいなら、成都や重慶に足を運ぶのがおすすめです」

そう言って山下氏が紹介したのが、第二次世界大戦後の重慶を表現した舞台『重慶1949』です。

客席から一望できないほど巨大で回転する舞台、数え切れない数のキャスト、袖から運ばれてくる巨大な船、地下から現れる高さ30m超えの監獄。日本ではおそらく実現不可能な規模の舞台ですが、山下氏によると、もったいない状況になっているそう。

「これは約160億円をかけて建設された舞台で、1公演するだけでも相当な費用がかかっていると思われます。ですが、僕がチケット代として支払ったのは7,000円。1,500席程度ありましたが、この日は平日ということもあり空席が目立ちました。この演目は歴史教育を目的としており、修学旅行生や会社の研修ツアーなどで利用されている政府系のプロジェクト。そのため、採算度外視で興行が可能なのだと思われます」

加えて、全編中国語で物語が進められるため、完全に国内向けのエンタメに留まってしまい勿体無いと言います。これほど素晴らしい舞台なので、英語での演目や字幕を追加したり、歴史ジャンル以外の分かりやすい演目をこの舞台に追加したりすることで、海外の人や若い層の観客に注目されるはず、と山下氏は補足しました。

村スポーツの優勝商品は牛

中国都市部のエンタメを紹介した後は、農村部で流行している村バスケ・村サッカーを紹介。

日本では地域ごとにプロのバスケットボールチームやサッカーチームがあり、地域住民から支持されていますが、中国の郊外ではアマチュアスポーツ(村スポーツ)の観戦が娯楽のひとつになっているそうです。

村スポーツの大会がある週末には数万人が会場に集まり、周辺には屋台などが出店します。大会にエントリーしているのは、普段は農家や漁師など別の仕事をしているアマチュア選手たち。大会に賞金はなく、優勝したら牛、準優勝なら羊、3位入賞なら鶏が授与されます。

なぜ、村スポーツにこれだけ注目が集まるのでしょうか。

「中国にもプロのスポーツチームはあります。ですが、たとえばサッカー界では八百長試合や汚職などがされていたり、大金をはたいてヨーロッパの選手を連れてきてもチームが強くならなかったり、中国代表がワールドカップに出られなかったり、悪いニュースばかりでファンからは不満の声が続出しています。一方で、牧歌的なアマチュアリーグがTikTokによってサッカーファンに広がり、彼らの注目は村スポーツに向くようになる。誰も儲からない、単純にスポーツが好きな人同士が試合を楽しんでいる様子が人を惹きつけ、ときにはNBAプレイヤーや元ブラジル代表のサッカー選手が村に来たこともあったそうです」と山下氏は解説しました。

内向き志向だった中国のエンタメ業界が、今変わり始めている

中国の飲食店やクラブ、舞台、スポーツなどさまざまなエンタメに触れてきた本講義でしたが、講義終盤には「中国の方のエンタメに対する捉え方は、日本人と違うものなのか」と広屋氏から山下氏へ質問がされます。

「中国の若い人は特に、“映える”かどうか“刺激的な体験”かどうかに重きをおいている感じがします。漢服を着て古代中国の雰囲気を楽しめる飲食店のように、文化的バックグラウンドが異なる人でも楽しめるエンタメに注目が集まりやすい。中国には数千年の歴史がある中で、組み合わせ次第ではまだまだ面白いエンタメが生まれてくると思います」

さらに広屋氏は、「今回山下さんのお話を伺って、今のところ中国のエンタメ界は、中国人の人口が多すぎるがゆえに自分たちが楽しめるものにいかに投資するかを考えている。人口が少ない日韓と比較すると、外から来る人にそこまで意識が向いていないと思ったのですが、その対比は合っていますか」と続けます。

これに対して山下氏は、基本的にはまだ内向き志向の人が多いと回答。一方で、Netflixで配信中のドラマ『三体』や、ゲーム『第五人格』『荒野行動』『原神』のように世界的にヒットしている作品があったり、留学経験のある若者がどんどん中国で新しいエンタメを作り始めたりしている段階であると言います。「中国のエンタメがグローバルで認められる時代は、今始まったばかりです」と話しました。

では、これから中国産のエンタメがますます市場に出てくる中で、日本はどうすべきなのか。中国のエンタメを見れば、相対的に日本が取るべきポジションが明確になってくると、山下氏は主張します。

「中国には派手好きな方が多い印象です。おそらく規模感では、日本は中国には勝てないと思っています。中国が足し算や掛け算によって派手な演出をするなら、たとえば、引き算の文化“わびさび”を感じられるエンタメを用意する。中国に寄せたエンタメを、小さい規模で作って中国に対抗しようとするのではなく、日本ならではのものを作り、戦わないことが大切だと感じています」

参加者の方からは「めちゃくちゃ勉強になりました!」「とっても楽しかった」とコメントをいただき、特別講義「現地映像満載!最新中国エンタメレポート!」が終了しました。

【登壇者】

ゲスト:広屋 佑規 氏
ストーリーレーベル ノーミーツ主宰

コロナ禍で劇団ノーミーツを旗揚げ後、オンライン演劇公演や新媒体でのドラマ、番組、映画など3年間で50以上の作品を生み出し、動員数は10万人を超える。新たな技術を取り入れた、まだ出会ったことのない物語と体験をつくる。文化庁メディア芸術祭、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS、AMDアワードなど受賞。

コーディネーター:山下 智博 氏
株式会社ぬるぬる CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)

大阪芸術大学芸術計画学科卒業後、2012年に上海へ移住し、13年から中国ネットで動画の配信を開始。以後長年に渡り中国に日本の土着文化を紹介する動画を投稿し、650万人を超えるフォロワーを抱える。
近年は日中双方で広告コンテンツや番組制作、プロデュース業を手掛け、その実績をインバウンド事業に繋げる取り組みをしている。
19年にはビリビリ動画より8名しか選ばれない10周年特別賞を外国人で唯一授与され、長年にわたる日中文化交流の貢献を称えられた。
小樽ふれあい観光大使、愛媛デジタルパートナー等を兼務。

モデレーター:吉村 毅
デジタルハリウッド大学大学院 教授
デジタルハリウッド株式会社代表取締役社長兼CEO

早稲田大学 社会科学部卒業、 (株)リクルート、CCC 取締役(創業期メンバー)、エスクァイア・マガジン・ジャパンCEO、GAGA 、カルチュア・パプリッシャーズ(現・カルチュア・エンタテインメント) CEOとし、海外映画の権利輸入、配給、宣伝の総合プロデュースを行う。「セッション」「ルーム」で、買付作品が、米国アカデミー賞を二年連続受賞。他に「キック・アス」「マリリン七日間の恋」など。韓国ドラマでは「イケメンですね」で、第二次韓流ブームを創る。K-POPグループ「インフィニット」を日本でプロデュース。オリコン1位を獲得。デジタルハリウッド大学大学院「日本IPグローバルチャレンジ」PJで発掘した原作小説「千年鬼」(著・西條奈加)のリメイク・アニメ映画企画が、2020年、香港フィルマート併設の国際企画コンテスト「HAF」で大賞を受賞。香港政府からの制作支援金を獲得し香港の映画企画会社でアニメ映画製作中。
現在、デジタルハリウッド株式会社 代表取締役社長兼CEOを務める。

【「中国エンターテインメント研究プロジェクト」とは】

デジタルハリウッド大学大学院では、2024年度より吉村毅教授が担当する研究実践科目ラボプロジェクト「韓国カルチャー&ビジネスコラボ研究ラボ」の開講に続き、同教員が担当する「中国エンターテインメント研究プロジェクト」を開始いたします。
アジアのコンテンツ、ビジネスが世界を席巻する中、特に、世界一の市場であり、また、クリエイティブ&ビジネス人材の宝庫であろう中国に注目し、日本との新たなコラボレーションの形を築きあげよう、という志から本プロジェクトは生まれました。
デジタルハリウッド大学の学部生および大学院生が仕掛けるビジネスやクリエイティブ活動とのシナジーによりに実現していきたいと考えております。
中国での総フォロワー数600万人を越えるインフルエンサー兼コンテンツプロデューサー山下智博氏の活動との発展的協業も視野に入れており、今回のイベントはそのキックオフとして位置づけています。