今回の修了生インタビューでは2020年度修了生の山中享さんにお話を伺いました。
山中さんは在学中に「LOOVIC」という空間認知サポートのサービスを開発されました。卒業後は起業して「LOOVIC」をさらに発展させた事業を展開されています。
―現在の仕事、活動について教えてください。
空間の認知が苦手な方に対して、デバイスを用いて空間認知に関する様々な悩みを解決する「LOOVIC」というサービスを開発しております。
在学中は会社員をやりながらLOOVICの原型を制作し、大学院を卒業するタイミングで起業しました。
地図アプリを凝視して進むようなものではなく、そばにいる最も信頼できるパートナーが行き先を案内してくれているようなイメージです。
私の身近に空間の認知が難しい障害を持つ方がいらっしゃいます。
移動する際にはどうしても他者に頼らなければならない生活を送っています。スマートフォンの地図アプリを使えば良いと考える方もいらっしゃるかと思いますが、空間認知を苦手とする方にとっては難しい場面もあります。
そこで障害をお持ちの方に限らず、老若男女、別け隔てなく誰もが移動に壁を感じることなく、自信を持って活動できるような社会に変えていきたいというのが開発の動機です。
LOOVICは、私たちの苦手という点に着目すると、空間認知の苦手だけでなく、もっと沢山の苦手がありますここをそれぞれの視点と、マスマーケットのニーズに合わせた視点で、将来的にはこの事業が形になれば、空間認知に限らず多くの人間の苦手を解決する技術開発としてチャレンジをしていく予定です。
私たちの取り組みは、ヘルスケアやスマートシティ業界など多数からお問い合わせをいただいており、それぞれの利用シーンに合わせて開発を行っているところです。
―大学院について、入学前と入学後でイメージに違いはありましたか?
入学した当時、デジハリでは「バカにされよう。世界を変えよう。」というトップメッセージが掲げられていました。
例え今は馬鹿にされていても、それが世界を変えるようなムーブメントになれば良い。誰しもが持つ個性を自由に伸ばしてやっていけるような場所である、という入学前の説明会の話とも繋がると感じたことが印象に残っています。
入学前のイメージ通り、社会変化をテーマとしてLOOVICの開発に打ち込むことができました。
―大学院には幅広い年齢層の方がいますが、やりづらさなどを感じたことはありましたか?
同期のメンバーが各界で活躍しているような凄い人ばかりで驚きましたが、やりづらさは感じたことがありませんでした。
授業と関係のない自分の事業で失敗してしまった事など気さくに話をすることができましたし、異業種の方ばかりなので違う感覚からの視点であったり、それぞれの業界の話はどれも新鮮で皆さんとお話しするのはいつも楽しかったです。
LOOVICを開発する際にも多くの意見や感想をいただいたことで励みになりました。
―印象に残っている授業はありますか?
藤井先生の「先端科学原論」は頭をトンカチでかち割られたような衝撃がありました。一語一句が新鮮で、まさに目からウロコということばかりでした。
例えばタコは一度に広い視野を持っていますが、人間は首を回さなければ見渡せないなど、必ずしも人間が一番優れているというわけではない、という視点は興味深かったです。
また、テクノロジーやマーケティング系のラボや授業が大変勉強になりました。
それまで自分を俯瞰して見てやっているつもりでしたが、視野が広がったことでより遠くから見通すことができるようになり、今の事業においても大変プラスになっていると感じています。
―大学院での学びを経て何か活かされたことはありますか?
それはたくさんあります。自分がこうしたいと思うことをプロダクトとして落とし込んでゆくにあたって、それがアートなのかビジネスなのか、ターゲットとなるユーザをどのように絞ってゆくか、それを実現するために必要なテクノロジーは何かということが、授業で習ったことや、同期の仲間たちから聞いた経験談などを基にして、考えをまとめることが容易になりました。
また、自分を信じてまずはやってみるというマインドを持てるようになり、挑戦することへのハードルが下がったように思えます。
―今後の展望について教えてください。
直近の目標として、まずはLOOVICのローンチになります。
年内にはいくつかのイベント、展示会への出展を予定しており、来年には、グローバルに向けたプロダクト情報の発信や、事業のマネタイズに向けた活動を計画しているところです。
ただし、プロダクトを出すところが目的ではなく、最終的に社会を変えるところがゴールです。
誰しも個性があり、得意不得意があります。なかには障害を持たれている方もいます。不得意や難しいと感じるところで差別や偏見が生まれるのではなく、誰しもが自分に自信を持って社会に出られるような世の中にしたいと考えています。
私たちはスタートアップ企業という括りになります。社会起業家としての立ち位置を持つスタートアップとして、未知の領域にチャレンジしています。本当に助けたい人たちに届けるには、マネタイズがなければプロダクト自体が成立しないので、そのあたりのバランスを考慮するために、インパクトとリターンを常に意識しながら取り組んでいます。
私たちは普段何気なく生活していて、多少苦手だと感じていることがたくさんあります。この視点に着目することがとても重要だと考えています。この私たちの苦手は、本当に苦手とする方々にとっては、もっと苦手と感じます。
これをテクノロジーで解決できるのならば、先程の藤井先生のお話のように、人間の苦手領域が得意に変わります。ただしそれは、一部の得意な人だけでは、私たちのコンセプトとはズレてしまいます。同じ結果で、誰しもが分け隔てなく人間の能力を超える力をテクノロジーを使って支援できることが私たちの理想です。そのギャップを埋めるチャレンジをすることで、そこに新しいマーケットが生まれてきます。
事業を進めた結果として会社が大きくなるということは構わないのですが、儲けたいのではなく社会を変えたいという活動です。
今の日本は過去と比べてハードウェアの開発が減ったと思っています。
AppleやGoogleなど海外メーカーが作ったデバイスに乗っかる形のソフトウェア開発が多くを占めていますが、新しい技術はハードウェアを作ってこそ生まれます。
今あるテクノロジーは使える人が使うことができるように設計されていることが多く、そこから外れてしまった人は不便なままになってしまっています。私はそのような現状に心を痛めており、技術的な障壁をなくすような開発を進めて、一人でも多くの人がテクノロジーを用いた恩恵により、苦手意識のない社会に変わっていくことを願っています。
プロダクトのアウトプットとして、例えば今やっているLOOVICで言えば、私たちが助けたい人たちがいます。その人に、スマートフォンから当てはめるのでは進歩はありません。
その人達の生活など、フィールドワークを行い、本当に何をすれば結果として変わっていくのか?すなわち、極端な話、”私たちの社会にはスマートフォンというデバイスが存在しない”というところから始めて、そのとき、どういうテクノロジーがあればよいのか?それが結果としてスマートフォンならばそれを使えばいいですし、そうでなければ、そうではないデバイスからプロダクトの開発を開始するのです。
そして、同じパフォーマンスの結果を保ちつつ、その人の個性が活かされるような社会実装を目指しています。
―入学を検討されている方へメッセージをお願いします。
私はこれまでサラリーマン人生が長く、その中では自分を押し殺すということが多かったです。
それに耐えることで耐える力は身に付きましたが、「自分」は出せていませんでした。
この大学院は自分の考えをどんどん出して伸ばしてゆくことができる自由な場です。この環境で学ぶことで私自身の能力を最大限に伸ばしてもらえたと感じています。
大切なことは自分が何者なのかというのを知ることです。自分自身を俯瞰して見て、なぜ自分がそれをするのかを考えます。
サラリーマン的な志向で、言われたことだけやっていれば良いというやり方では新しいものは生まれてきません。
誰しもがそれぞれ種を持っていて、その咲き方は人それぞれ変わりますが、その咲かせ方にスパイスを加えて味付けをして、個性を最大限に引き上げてくれるのがこの大学院だと思っています。
デジハリのような学校はまさに新しいモノ作りをできる人材が生まれる場所です。私の取り組み以外にも、もっと新しい社会変化が生まれることを楽しみにしています。
―ありがとうございました。
LOOVIC株式会社 Founder & CEO
山中享(デジタルハリウッド大学大学院修了)
デジタルコンテンツマネジメント修士。
アイリスオーヤマ、ソフトバンク、NTTPCコミュニケーションズアマゾンウェブサービスなど国内外大手企業を経て、ノバルスやユカイ工学などの最新テックスタートアップなどで経験を積み、LOOVIC事業を立ち上げる。本事業では、有名アクセラレーションプログラムでの採択やピッチコンテスト賞などを受賞。現在は本事業の市場へのローンチに向けて奔走中。