デジタルハリウッド大学大学院主催 映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』 特別トークイベント参加レポート
2022年7月2日(土)、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパス 駿河台ホールにて映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(2022年)特別トークイベントをZoom配信付きのハイフレックス形式で開催しました。
ゲストは『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』監督の西谷弘氏、モデレーターは落合賢准教授(担当科目:シネマティック・ランゲージラボ)です。
映画監督の落合准教授が企画する「Cinema」と「Educare(育成する)」を合わせた上映イベントシリーズ『Cineducare(シネドゥケア)』は今回で3回目を迎えました。第1回の『映画 太陽の子』(2021年)の黒崎博監督、第2回の『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021年)の森義仁監督に続き、今回はフジテレビ系・月9ドラマ枠で放送された『シャーロック』の映画化作品『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』の西谷弘監督をゲストにお招きしました。デジタルハリウッドの学生と一般のお客様を対象に、映画製作について語っていただくとともに、本イベントを記念した映画感想文コンテストの優秀賞3名を発表していただきました。
「今まで何度か舞台挨拶や大学の講演をしてきましたが、今回は未来のプロデューサー、ディレクター、脚本家を目指す(デジタルハリウッドの)学生のために話すということで、有意義な時間を過ごせたらと思います」と西谷監督。本作の予告編、監督のプロフィール紹介、西谷監督の本作に対する感想を伺ったあとに、主演俳優のディーン・フジオカさんから届いたサプライズ・ビデオメッセージが流れました。
「デジタルハリウッド大学(大学院)の皆さん、会場の皆さん、西谷監督、そして賢ちゃん(落合賢准教授の愛称)。こんにちは。ディーン・フジオカです。」「映画制作秘話など西谷監督からレクチャーいただける貴重な機会。世界名作シリーズでお世話になっている西谷監督のお話は今後の活動の糧になるはずです。」「現場で会える日を楽しみにしています。これからも頑張ってください!」
◆ 西谷監督のディーン氏に対する第一印象
西谷監督とディーン氏の最初の出会いはフランスの小説『モンテ・クリスト伯』を原作とし、舞台を現代の日本に移したTVドラマ『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』(2018年)でした。「逆輸入俳優」と評されるディーン氏の評判を聞いていた西谷監督は
「海外の古典作品を、日本を舞台にアダプテーション(翻案)した場合、佇まいが無国籍風な彼ほどはまる人はいない。」と語り、『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』と同様にシャーロック・ホームズシリーズという海外作品を翻案した今回の『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』でもディーン氏の存在感が存分に発揮されていると語ります。
◆ 西谷監督はディーン氏の演技について
「ディーンさんはセリフやアクションのすべてに意図・目的・意味を求める俳優。ただ走るのではなく、なぜその場面で水を飲むか、上着を脱ぐのかといった、動作・言葉、すべてに意味があると考えている。」と解説したうえで
「『何事も理屈じゃないんだよ』という言葉があるが、自分(西谷監督)は全てにおいて理屈はあると思って演出し、脚本を書いています。目的を紐解くという点でお互い気が合いました。」とディーン氏と自身の共通点を紹介されました。
◆ 西谷監督とディーン氏の信頼関係
『シャーロック』シリーズで再びディーン氏とタッグを組んだ西谷監督は「(『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』で)ディーンさんと最初に組んだときはまだ手探りで、お互いに期待と不安を持ちながらドラマを制作した。」と前置きしたうえで、
「ドラマが一話完成した後に観たとき、良い仕上がりだと役者側の監督に対する信頼は確実になります。今の自分とディーン氏の信頼関係であれば『スタント無しで崖から飛んで』と言ったら彼はきっと冗談にとらずに本気でやってくれると思います。笑 もちろん死なれてしまっては困るので、リスク対策をどうするか、などと現実的に切り替えながら彼は応えてくれるだろうという信頼がありますね。」
◆ 西谷監督が俳優と接するうえで意識していること
西谷監督は役者と接するうえで大切なのはとにかく「どれだけ準備できているか」だと言います。
「たとえば『水』がテーマであれば、水について一番考え抜いた人が作品をリードする権限があると思う。」「それぞれの役者さんがいて、役に対する演技の依頼があったうえで、その役者自身の演技プランが掛け合わされてより良いものができる。だから各自がどれだけ引き出しを持っているか、どれだけ役の研究に時間を費やすかが大事になる。」
「よく海外だとシナリオライターが役者全員についていますよね。日本ではそのシステムはないですが、自分は同じレベルの考え方と挑み方をしています。」
◆ 若い監督の登竜門
また西谷監督は若い監督の登竜門といえる、役者に「この台詞は言えないよ」と言われた場合の対応についてもお話されました。「『白い巨塔』のときに俳優の西田敏行さんたちと焼肉店に行ったとき、西田さんが若い役者に対して『役者なんだからこの台詞言えないじゃなくて、一回言ってみて、自分のなかでセリフという電気を通してみろ。』『そうすると意外と言えるな、と発見があったり、逆に言えないのはどこだったんだろうと探れるかもしれない。とりあえずやってみるんだよ』と。以降自分も参考にしています。」
◆ 西谷監督の撮影現場の進め方は?
トークイベント内では特別に『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』のメイキング・クリップを上映しました。獅子雄(ディーン・フジオカ)と若宮(岩田剛典)らをはじめとする登場人物が初めて出そろうシーンです。落合准教授が西谷監督に現場を進めるうえで意識されている点について質問すると「やはり冒頭に述べたように準備をきちんとしておく、そうしたら色々対応がきくのでね。」と答えました。西谷監督はリハ前に全ての役柄の芝居を一度自分で演じ、それを助監督に見せ、相手役を務めてもらっていると明かしました。役者が8人いたら8人分の芝居をやることで、動きに無理のある部分を見つけて修正できるうえ、より面白い演出の鍵となる発見があるそうです。
入念な準備の重要性を説く一方で、西谷監督は「決めつけすぎず、ある程度の形をとれるよう」臨機応変に対応する柔軟性も大切だと言いました。
「特に今回は犬、ワンちゃんのヴィル君がいたのでそれこそ人間の思い通りにいきませんでした。階段を登るシーンで急に登らなくなり、設定そのものを変えなくちゃいけなかったり。だから現場で急遽シナリオを変えたりもしました。」「お芝居はCGではなく、人間同士なので一人の芝居によって相手の芝居も変わってくる。そういうのを見逃したくない。準備も大切だけど、現場の瞬発力も大切なので、アドリブや空気感を大事にしています。」
◆ Q&A
映画感想文コンテストの優秀賞発表の前に、オフライン会場(駿河台ホール)とオンライン会場(Zoom)の参加者から西谷監督への質問を募り、ドラマ作品の映画化の難しさ、カット割り、ロケーションにまつわる質問から、黒犬の祟りの理由まで、時間の許す限り回答していただきました。車のナンバーが「8194(ハ・イ・キ・ョ)」=廃墟になっていることに気づいたというファンの方の感想を聞き、西谷監督も「貴方のような人のために僕は小ネタを作ってます」とにっこり。
◆ 映画感想文コンテスト
イベントの最後には、西谷監督じきじきに選んだ映画感想文コンテストの優秀賞を発表しました。発表の前に、西谷監督は今回の感想文コンテストについて、200字という制限のある文字数のなかで表現することの難しさを解説してくれました。
「少ない文字数で表現していくというのは、プロデューサーやディレクター、ライターを目指す方にとっては非常に良いトレーニングだと思います。なぜなら短いものを作る方が大変だからです。」「自分は元々コマーシャル出身だが、何が一番難しいかというと15秒でクオリティの高いものを作ることです。15秒のものを作ることができれば、そのあと時間を延ばすのはいくらでも延ばせる。延びる分は誤魔化しもきくので。」
「今回の感想文コンテストでは、自分で何を思って何を作ろうとしたのか垣間見えるものを審査基準にしました。この映画を見て自分は何を思ったのかが表れているものを入選させています。」
若宮賞
坂上 恵さん
”物語に没入していたところ、近所のショッピングモールが誘拐現場として登場し、現実へと引き戻されてしまった。理不尽に誘拐されネグレクトを受け、自分を責めて生きてきた紅。蓮壁家への憎しみは相当なものだったに違いない。そうして事件は起きたのだが、現実に帰ってしまった私は碧海ちゃん一家が幸せになれた方法を考えずにはいられない。物語として成立せずとも別の道はなかったかと、誘拐現場で買い物をしながら思った。”
獅子雄賞
岡本優美さん
”ホームズは慟哭しない。そんな声を散見した。だがホームズは真実を見抜けぬ己に絶望する。彼は「黄色い顔」の最後、自分が驕っている時はノーバリと囁くようにワトソンに請うた。今作は、史上最低の「ノーバリ」となった。誉は誉であるが故に馬場の想いを見抜けず、だからこそ慟哭するのだろう。だが、彼はホームズだ。どれほど真実に身を斬られてもワトソンと共に真実を追い求める。誉もまた若宮と走り出すと思う。”
西谷監督賞
松崎愛里沙さん
”色んな見方ができて、楽しめる映画だと思いました。獅子雄が謎を解くカタルシスからの、怒涛の展開。個人的には、地震で家族3人が死ぬ未来ではなく、自首をして捨井准教授が待ち続ける少しの希望が残る終わり方が良かったなと思いました。しかし、あそこで3人が死に、捨井准教授の生死もわからない終わり方だからこそ、ハッピーエンドを自分の中で作り上げたんだなと思うとすごく良い終わり方だったと気づきました。”
登壇者プロフィール
西谷 弘(にしたに ひろし)氏
1962年2月12日生まれ、東京都出身。CM ディレクターを経て1996年、「TOKYO23 区の女」(96/CX)でドラマ監督、脚本デビュー。「催眠」(00/TBS)、「眠れぬ夜を抱いて」(02/EX)、「天体観測」(02/CX)、「美女か野獣」(03/CX)、「白い巨塔」(03~04/CX)、「ラストクリスマス」(04/CX)、「エンジン」(05/CX)などの連続ドラマのメインディレクターを手掛け、2006年、織田裕二主演の『県庁の星』で映画監督デビュー。以降、福山雅治のTVシリーズ「ガリレオ」(07/CX)をヒットさせ、その劇場版『容疑者Xの献身』(08・第32回日本アカデミー賞優秀作品賞受賞)、『真夏の方程式』(13)でも監督を務める。草彅剛主演の「任侠ヘルパー」でもドラマ、映画双方を監督。2014年、ドラマ「昼顔~平日午後3 時の恋人たち~」を演出し、2017年にその劇場版『昼顔』も監督。他の映画監督作品に織田裕二主演の『アマルフィ女神の報酬』(09)、『アンダルシア女神の報復』(11)や、『マチネの終わりに』(19)、『沈黙のパレード』(22)などがある。
落合 賢(おちあい けん)氏
東京の高校を卒業後、渡米。南カリフォルニア大学(USC)の映画制作学科を卒業、2008年にアメリカ映画協会付属大学院(AFI)の監督学科で修士号を取得。卒業制作の『ハーフケニス』が、全米監督協会(DGA)から日本人として初めて審査員特別賞を受賞した。ウエンツ瑛士主演の「タイガーマスク」で長編映画監督デビュー。2014年には日本と北米で公開された福本清三主演の映画「太秦ライムライト」が、ファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞、主演男優賞をW受賞。また、長編第4作目「サイゴンボディガード」が2016年に公開されると、ベトナムでは「スターウォーズ ローグワン」を超えて大ヒットを記録する。小説「パパとムスメの7日間」のベトナム版リメイクを監督。2018年、12月28日にベトナム全土で公開され、100万人を動員、ベトナムアカデミー賞最優秀作品賞にノミネートされた。「サイゴンボディガード」が、ユニバーサルピクチャーズによってリメイクされることが決定。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のクリス・プラットが主演し、落合は「アベンジャーズ」を監督したアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟と共にエクゼクティブプロデューサーとして参加することが発表された。劇場公開長編映画のみならず、ショートフィルムやCM、MVなど幅広いジャンルの映像を監督し、ロサンゼルスを拠点に日本、アメリカ、ベトナムなど世界各地で活動している。2021年度よりデジタルハリウッド大学大学院にて准教授に就任し、「シネマティック・ランゲージラボ」でハリウッド式映像制作術を教える。
『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』作品概要
その謎解きを、後悔する
INTRODUCTION
世界的探偵小説「シャーロック・ホームズ」シリーズを原案とし、ディーン・フジオカ演じる誉獅子雄(ほまれししお)と、岩田剛典演じる若宮潤一(わかみやじゅんいち)が、唯一無二の名探偵バディとして数々の難事件を解決する、フジテレビ系月9ドラマ枠で放送された『シャーロック』が映画化。
ホームズシリーズ最高傑作の呼び声も高い『バスカヴィル家の犬』をモチーフに、華麗なる一族の闇に獅子雄と若宮が迫ります。ドラマシリーズで好評を博した、魅力的なキャラクター、テンポの良いスタイリッシュな演出、美しい映像はそのままに、映画ならではの重厚感と中毒性をもたらすのは『容疑者Xの献身』『昼顔』などヒューマンドラマの名手・西谷弘監督。
徐々に忍び寄る恐怖が、やがて画面を覆いつくす―― 。
日本映画の歴史に、背筋震わす新たな本格心理スリラー映画が誕生します!
STORY
瀬戸内海の離島。日本有数の資産家が、莫大な遺産を遺して謎の変死を遂げる。資産家は死の直前、美しき娘の誘拐未遂事件の犯人捜索を若宮に依頼していた。
真相を探るため、ある閉ざされた島に降り立つ獅子雄と若宮。二人を待ち受けていたのは、異様な佇まいの洋館と、犬の遠吠え。容疑者は、奇妙で華麗な一族の面々と、うそを重ねる怪しき関係者たち。やがて島に伝わる呪いが囁かれると、新たな事件が連鎖し、一人、また一人消えてゆく。底なし沼のような罠におちいる若宮。謎解きを後悔する獅子雄。
これは開けてはいけない“パンドラの箱”だったのか?その屋敷に、足を踏み入れてはいけない―― 。
終わらない謎へ、ようこそ。
公開日:2022年6月17日(金)
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、新木優子、広末涼子、村上虹郎、渋川清彦、西村まさ彦、山田真歩、佐々木蔵之介、小泉孝太郎、稲森いずみ、椎名桔平
監督:西谷弘
脚本:東山狭
配給:東宝
公式HP:https://baskervilles-movie.jp/
©2022映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」製作委員会
【デジタルハリウッド大学大学院研究実践科目「シネマティック・ランゲージラボ」とは】
「シネマティック(映画芸術的)・ランゲージ(言語)」とは、映像作品を言語学的に紐解いた独自の理論です。コミュニケーションツールの一つとして、映像作品を媒体に創り手のメッセージを不特定多数の視聴者に向け、効率的かつ感情的に伝達するアプローチです。
本ラボでは、ハリウッドの名だたる映画監督やプロデューサーを輩出したUSC、NYU、AFIにて培ったハリウッド式映像制作術の基礎と応用を、既存の映画やドラマの映像事例などを用いてレクチャーします。
また、実践的な映像制作課題を通して、シネマティックな映像を制作する事で、ハリウッド式映像制作術の本質的な概念と実用的な技術を身につけた、国際的な映像監督やクリエイティブプロデューサーを育成します。