【レポート公開】デジタルハリウッド大学大学院 2022年度 成果発表会「TRANS. DHGS the DAY」
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実施レポート
2023年2月25日、デジタルハリウッド大学駿河台キャンパスで開催された、デジタルハリウッド大学大学院(以下、DHGS)2022年度成果発表会についてリポートする。
『TRANS. DHGS the DAY』とは
毎年、修了前の年度末に開催されるデジタルハリウッド大学大学院の研究成果を幅広く発信するための成果発表会。
主に、修了課題の中から、選抜された修了生がプレゼンテーションするイベントだ。その年、最高のアウトプットの数々から、実際の起業につながるのはもちろん、投資が集まることも珍しくない。
本イベントには、今年度多くが修了する18期生に冠された愛称「TRANS」から、今回は、『TRANS. DHGS the DAY』と銘打たれた。
ここでのTRANSは、向こう側へ超えていくために自らを変容するというようなイメージとして捉えて欲しい。感染症状況下において、世界が転換して行く中、あえて大学院での挑戦を選び、既存の文脈からのTRANSを実践し共有してきた修了生たち。彼らがこれからも、いつまでも、しなやかに、したたかに、変容し続けるものたちであって欲しいというメッセージが込められている。
MCのヤンと、コメンテーターを務める木原研究科長によるイントロダクションからスタートした。
昨年同様、パンデミックの影響を鑑みて登壇者のみ現地参加とし、その模様をオンラインでLIVE配信した。
修了課題プレゼンテーション・前半
聴覚障がいの課題を「音が目でわかる。」で解決!相互探求の文化づくりへ/澤田 真吾
トップバッターの澤田はサウンドエンジニアとして活躍しながら、「音を可視化できるのではないか?」というインスピレーションを信じて大学院へ。音を視覚刺激に変えるシステムを手掛け、聴覚障がいの悩みを解決する可能性があるという。社会実装に向かって加速する澤田の姿は、今回のイベントを通して最も印象に残った。
xTabi 耳でトラベる音のAR体験/CARREAU ALEXANDRE
CARREAUは初来日で聞いた蝉の声を忘れられないという。あの音を聞くと、あの夏が浮かぶ。音は記憶を呼び戻すトリガーになり得るのではないか?そう思った彼が手掛けるのは、世界中の音を集め、聞くことで日常的に旅を体験できるシステム。拡張現実=ARというと、映像の話だと思う人も多いが、音だけで現実は拡張できるのだと、改めて気が付かせてくれた。
エリアナレッジマネジメント -郊外団地活用による地域コミュニティ活性化の研究-/斉藤 千紘
斉藤の課題は戦後に生まれた「団地」の魅力を再定義しアップデートすること。「コミュニティ活動の活性化こそが、課題解決の鍵。地域代表のナビゲーター・行政・民間事業者の3者が協力し合うことが大事です。」西武グループで勤務しながら学んだ斉藤は、すでに社内と連携しながらこの活動を推進中。統計調査をした東久留米市は斉藤が育った街。パーソナルなモチベーションが心に響いた。
「粋物語」きものが織りなす物語による粋なライフキャリア共創/森 佳奈枝
教員・保育士の両親のもとで育ち、教育畑に進むも更なる高みを目指して上京した森は、「子どもが『自分の』『夢』を持ち、歳を取っても『夢』を追い続けられる持続可能な社会」を実現するべく大学院へ。手掛けるのは、日本の風土から生まれ発展し、現在も人生の節目をともにする「きもの」が織りなす物語コンテンツ事業を起点とした、日本ならではのキャリアデザインとその共創。「偏在する可能性の『糸』を織り、粋きがいに向かう『縁』を醸成し、『物語』を創出する―」これからの活動が楽しみだ。
体験型コンテンツで「感想」ではなく「思い出」を生む物語体験/鈴木 夢
一つの「蔵」を使って提案した体験型コンテンツ「鬼のいる蔵」は、アナログとデジタルが融合した作品。参加者は「ノベルゲーム」「実写映像」「体験型演劇」 と大きく3つのパートを一つずつ体験していくことで「マルチバースを体験でき、他にはない没入感が得られる。」と鈴木は話す。マルチバースと聞くと、デジタルの話として捉えがちだが、アイデア次第でユニークな仕掛けができることに気が付かせてくれた。
世界へ届け 第97回アカデミー短編映画賞受賞 短編映画「さまよえ記憶」/野口 雄大
映像の第一線で、監督や演出を手掛ける野口の作品は、友人が行方不明になったことをきっかけに生まれた。どれだけ時を経ても、残された人々には苦しみが終わらずに繰り返す。はじめは友人の母のために作るつもりだったが、いつしか自分自身こそが救われたいのだと気がついたという。曰く「自身の苦しみと向き合い、自分自身を受け入れる旅だった。この映画が、誰かの光になることができれば嬉しい」ぜひ、予告もあわせて楽しんでいただきたいが、何よりも映画を観て欲しい。SNSで映画情報を随時発信中だ。
日本IP×ショートフィルムで世界へ! 映画『ストレンジ』/真田 静波
つゆきゆるこ著『ストレンジ』を実写映画化。真田は、企画からプロデュース、広告宣伝…いわゆる裏方全般を手掛けた。LGBTQ+キャラクターが登場する本作では、細やかな配慮に何よりも心を割いた。LGBTQ+インクルーシブディレクターを起用し、性的マイノリティに関するセリフや所作、キャスティングを監修した。マイノリティ役を当事者が演じるというグローバルスタンダードにも則った。製作過程におけるすべてが真田の挑戦であり、社会への問いかけなのだと思った
ライトニングトーク
ここまで怒涛の約60分。後半前のライトニングトークの模様をお届けする。DHGSで学んだプレゼンター、3名が登壇した。
まずは、AIを活用した業界特化型・英語学習「Medi-point」を手掛ける佐々木菜々子。
医療という言語障壁の高い業界をグローバルにする。
二人目はひふみ株式会社の代表を務める畠田拓。
AIの力を使ってOMO広告を最適化できる「AI-Ads」の開発を手掛けている。
ラストを飾るのはファッションテックラボ みおしんこと西村美緒。
「パワー!」のアクションから、全編通して手話で行われたプレゼンは会場を静かに熱狂させた。
ファッションショーでも、手話が登場する。
Re-Designing The Fashion デジタルハリウッド大学院ファッションテックラボ成果発表会
解説note「Re-designing the Fashion」
修了課題プレゼンテーション・後半
Goodbye DX, Hello DXE/平野 北斗
DXEは、「DX」に「E=Entertainment」を付けて平野が作った造語だ。彼は「離れた場所から神社を拝む=遥拝」をデジタルで手助けする「遥拝システム」を手掛ける。このシステムに行きつく前に、彼は一度神社業界のデジタル化に失敗している。それは、効率化を目指したからだという。「誰もが効率化を求めているわけでない。」それに気がついた際に、彼がインスパイアされたのが本学のモットー“Entertainment. It’s Everything!”。効率的でなくとも、最新でなくても、あなたを楽しませること。DXEこそが進むべき道だと、楽しそうに語ってくれた。
誰でも創薬に参加できる未来の創造 ~ 薬理活性予測AIの開発 ~/伊藤 聡志
少し先の未来。専門性の高い「創薬」が民主化されるかもしれない。伊藤が手掛けるのは、AI活用により創薬実験のバーチャルシミュレーションを行える「薬理活性予測AI」だ。大規模な実験設備がいらないため、開発費用を抑えられ、誰もが創薬に関われる。。新薬が開発しにくくなっており、研究開発費が増大している問題も解決するかもしれない。グローバルにも通用する、真にイノベーティブな事業だと感じた。
1億行のデータを解析して、学習者を支援する/藤井 政登
「私はデータが大好きです。」と語る藤井は、1億行の学習データを解析、学習者支援を行うことを目論んでいる。今回は、高校生が英検2級を受ける際の最適なサポートを、企業が貯めたデータから導いてくれた。驚いたことにデータ解析は全て無料ツールで行われた。誰もが同じ手法を使えることで、世界の不均衡を失くせるように。これからは、Cleverのような会社を創りたいと語る。
メタバースに絵本の図書館を VRデジタル絵本システム(アセット)の研究/駒木根 剛
駒木根が、Unreal Engineで創ったアセットは、VRデジタル絵本システムとそのデモコンテンツ『森の温泉』。レビュー動画では、次々と仮想空間上のページが捲られていく。このVRデジタル絵本はウクライナの代表的な絵本『てぶくろ』のオマージュとして制作された。戦禍のウクライナを思い「世界で最初に世界平和を訴えたメディアアート、VRデジタル絵本」を目指した本作は、メディアアートの歴史に残る一冊なのかもしれない。
MAFA/Manga Anime For All 老若男女誰もがマンガアニメを創れる世界へ/武藤 隆史
武藤が手掛けるシステム「MAFA」はManga Anime For Allの頭文字から名付けられた。MAFAを使えば、誰もがハードルの高い、漫画やアニメを作れるようになる。守秘義務等の絡みで、MAFA実装後の未来を物語として限定的に発表された。どこにでもいる高校生が、ちょっとしたアイデアで世界を変えるストーリー。想像するだけで、ワクワクする。商標登録完了、特許出願作業中とのことで、リリースが待ち遠しい。
ここまでで、在校生院生による全プレゼンテーションが終了。
最後に、修了生のゲストプレゼンテーションがスタート。
今回は株式会社LOOVICの山中 享氏が登壇。
誰もが不安なく、街歩きができるサービス「ハンズフリーフィジカルナビ」を開発するスタートアップ企業。今やプレシードの資金調達を実施し、グローバルも視野に入れた活躍の最中。リアルなビジネス現場からの貴重な話を聞かせてくれた。
まさに、修了後、どのようにTRANSしているのか、イメージできるプレゼンテーションだった。
総評
木原研究科長から「大学院には、色々な人が集い、多様な研究がされていることを再認識できる、意義深い成果発表会だった。」との総評。
今年は、MVPに加え、今後に期待出来る優れた成果に対して奨励賞が授与された。
奨励賞を受賞したのは「誰でも創薬に参加できる未来の創造 ~ 薬理活性予測AIの開発 」を手掛けた伊藤 聡志。
「驚いています。『創薬』という難易度の高いテーマだったので、当初は予測AIの開発は無理ではないかと何度も言われましたが、様々な方のサポートのおかげでカタチにできました。社会実装まで課題は山積みですが、これからも頑張っていきたい。」(伊藤)
そして、MVPを受賞したのは、「聴覚障がいの課題を『音が目でわかる。』で解決! 相互探求の文化づくりへ」澤田 真吾。
「トップバッターだったので緊張しました。聴覚障がいをお持ちの方を少しでもサポートしていきたい。色々な方を巻き込んで作れたプロダクトを数年以内に世の中に届けたいと思っています。」(澤田)
なんとここで澤田を祝いに指導教員でもある藤井 直敬 卓越教授がサプライズで登場。これには澤田も驚き。
「澤田くんは、ビジョンに向かってアップデートしていく過程が素晴らしかった。働きすぎないようにね。」
素晴らしいプレゼンテーションの数々。登壇者たちがまさにこの一日、この瞬間に変容していく素晴らしい姿が感じられた。
YouTubeLive アーカイブ動画
▼大学院成果発表会のアーカイブ動画は以下よりご覧いただけます。
TRANS. DHGS the DAY ダイジェスト動画
▼4分のダイジェスト動画をご覧いただけます。
登壇者インタビュー ポッドキャスト「AFTER the DAY」
▼各登壇者にインタビューをしたポッドキャストを配信しています。