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2024.04.05

【開催レポート】「縦型動画の世界最前線事情」中国エンターテインメント研究プロジェクト特別講義第2弾

2024年3月6日、デジタルハリウッド大学大学院は、吉村 毅教授が立ち上げた「中国エンターテインメント研究プロジェクト」の一環として、特別講義「縦型動画の世界最前線事情」を開催しました。

登壇したのは、中国での総フォロワー数600 万人を越えるインフルエンサー山下 智博氏、中国ECプラットフォームとの協業経験が豊富な中国在住12年目の福積 亮氏、ショートドラマクリエイター集団「ごっこ倶楽部」の統括プロデューサー兼脚本家でありデジタルハリウッド大学非常勤講師の志村 優氏、デジタルハリウッド大学大学院の吉村 毅教授の4名です。

日本では、TikTokなどのショートムービーアプリはSNSとして認知されています。しかし中国版TikTokの「抖音(ドウイン)」や「快手(クワイショウ)」など中国の大手ショートムービーアプリはECとして認知されていると、福積氏は話します。

中国のショートムービー市場で何が起きているのか。日本の市場はこれからどうなっていくのか。日中のショートムービー市場最前線で活躍するゲストの皆さんに、解説してもらいました。

ドウインはECアプリ?中国のECが多様化

約9億人以上の中国人ユーザーがいる(*)、ショートムービー市場。愛媛県のインバウンド政策に関わっている山下氏は「中国向けに情報発信をするなら、ショートムービーを活用するのがスタンダードです。日本の場合は若い人がショートムービーを視聴するイメージかもしれませんが、中国では老若男女が使っています」と解説。

都市部を中心にドウインが、地方を中心にクワイショウが普及しており、中国全土の人々がショートムービーを視聴している状態なのだそうです。

では、彼らは何を見ているのでしょうか。TikTokやドウインを運営しているByteDance社と協業している福積氏は、「ByteDance社はECに注力する、と公言しており、ユーザーにもECサービスとして認知されている」と言います。

さかのぼること20年以上前、中国ではアリババグループの「淘宝(タオバオ)」、テンセントグループの「京東(ジンドン)」などが誕生しました。両サービスは2010〜2020年にかけて急成長し中国2大ECモールとして確立。後発のサービスとして、2018年ごろから新興勢力「PDD」が台頭します。PDDは、SNSでつながっているコミュニティに着目し、複数人で一緒に商品を購入すれば通常価格よりも安く買える仕組みを提供したことで、地方や低所得者層のユーザーを獲得しました。

その後、現在に至るまでショートムービーアプリが爆発的に流行。それに伴いライブ配信とECを組み合わせたライブコマース市場が急速に発展します。

このように中国のEC市場は、ECモールのようなトラディショナル型、コミュニティで商品を購入するソーシャル型、ショートムービープラットフォームを介して売り手と買い手がつながるインタラクティブ型など、さまざまなタイプのECサービスが2024年時点で存在し競争が激化しているのです。

(*)参考:日本貿易振興機構(2023)「中国の動画配信に関する市場調査

ライブ配信で買い物をすることが、生活の中に入り込んでいる

この特別講義の前、福積氏は上海で現地の方の採用面接をしたそうです。

「TikTok見る?って話をしたら、見るというかTikTokで買うって言うんです。今日着ている服も全部TikTokで買ったらしくて。なんでTikTokで服を買うのか聞いてみたら、静止画だとPhotoshopとかで加工されているから、ネット上の画像と実物が全然違ったりする。ライブ配信の場合は、ライバーが商品をカメラに近づけてくれて生地感や色味が分かるので、購入前後のギャップが少ない。だからとにかくライブ配信で買うよ、という話をしてくれました」と福積氏。中国の方にとって、ライブコマースは生活に欠かせないという事例を紹介しました。

TikTokを「見る」日本とTikTokで「買う」中国。なぜこんなにもTikTokの使い方が違うのでしょうか。そもそも、ドウインと日本のTikTokはアプリに搭載されている機能が異なります。福積氏は、3月8日の「三・八国際労働婦女節」というキャンペーンに合わせてライブ配信をしていた方を例に、ドウインの操作方法について解説しました。

まずライブ配信の画面を開くと、上部に表示されているナビゲーションタブに、商品に関するボタンが2つあります。それをタップすると、配信内で紹介された商品リストが表示されます。そこから商品を選択して購入完了。配信画面から2、3 タップするだけで自宅に商品が届くのです。

3月8日のほかにも、中国では11月11日に開催される「独身の日」のようにショッピングデーが多数あります。その日に照準を合わせて、配信者は商品を選定し、ユーザーは情報収集をするのだそう。たとえばライブ配信の予告編として、配信者がメーカーと価格交渉をし、ファンのために安く商品を仕入れたことをアピールする動画を配信する人もいます。また、なぜ自分はこの商品を取り扱うのか、説得力を持たせるために実際に工場に行って商品の魅力を解説する動画を投稿する人も。

このように、さまざまな施策を講じた上でライブ配信がスタート。数秒で在庫がなくなる事例も福積氏は紹介し、ライブ配信での買い物が一種のエンタメとして中国の方に浸透していることを伝えました。

「視聴」が応援になる日本と、「購入」が応援になる中国

福積氏は、トップインフルエンサーを起点にどれだけの商品が売れているのか、とある夫婦の事例に触れます。2018年にドウインのアカウントを開設して以降、5年間で約500億円を売り上げ、フォロワーは6,500万人以上。狭い部屋から夫婦で動画撮影を始め、試行錯誤していった様子を記録した、ドキュメンタリー映像を紹介しました。

これに対して志村氏は「たとえば日本のTikTokerとして活動している人は、フレッシュさや素人っぽさ、アマチュアさなどを押し出して、その面白さで視聴者に受け入れられるケースが多いんです。メジャーシーンで活躍している方がライブコマースでたくさん物を売ることが多いのか、それとも無名だった人がライブ配信をする中でキャラが確立されているのか、どちらのケースが多いのでしょうか」と疑問を投げかけます。

福積氏は「どちらのケースもあります。ただ中国のライブコマース市場では、アーティストでも、インフルエンサーでも、コメディアンでも売る力が数値化されるんです」と回答。発信内容が違っても、誰がどれくらい稼いでいるのか同じフィールドで評価されるそうです。

これに加えて山下氏は「中国の場合は物を売ってなんぼ。お金を動かせる人であればあるほど、強いバックアップ体制ができるので、多くのクリエイターは売上を重視します。日本ではYouTubeに動画を投稿し、再生された分だけプラットフォームが養ってくれますが、ドウインなどはそういうシステムではなく、自分たちでお金を作っていくしかありません。そのため信者のようにお金を使ってくれるファンがいるかどうかが、インフルエンサーのパワーを示す指標になっています」と補足しました。

さらに、ここまで特別講義に参加してきた方からも「中国では物を売ること自体が普通なのでしょうか」と、文化の違いに対して質問が届きます。福積氏も山下氏も「普通です」と回答。

山下氏は「中国でインフルエンサーとして生きる道は、企業から広告の仕事を請け負うか、自分でブランドを立ち上げて自分の商品を買ってもらうしかありません。つまりプラットフォームではなく、企業かファンから支えてもらうしかない。ファンとしては、この人が創作活動を続けるためには、広告の案件が増えないといけません。そのため新しい企業の商品を紹介するようになったらファンは喜びますし、俺たちが買って支えるよと言ってくれる。ファンとインフルエンサーの関係性は、日本と大きく違うかもしれません」と続けました。

本物かつ安価のため、ライブコマース市場が発展

ここまで、中国のライブコマース市場について話が進んできましたが、日本のライブコマース市場がどうなるか、志村氏からも話がありました。

「運営元が同じであるため、日本のTikTokもいずれECになることが考えられます。しかし、日本の場合はECモールに掲載されている静止画の情報が正確で、ライブコマースで買う必要がないことも考えられます。中国の場合、おそらく買い物で失敗したり、騙されたりした経験があったため、信頼できる配信者から紹介された商品を購入する傾向があるのかもしれません。また日本には、儲ける人を嫌う風潮が若干あるように感じています。僕はショートドラマを作っている立場として、この人に商品紹介をしてもらったら、もっと売れるだろうなと日々考えてしまいますが」と、日本に住んでいるからこその視点で主張します。

「確かに、日本だと物を売り始めたら、ファンがあれ?ってなることありますよね。一方で上から売らされているのではなく、これ本当に良いからみんな買ってほしいと、心からのレコメンドになると、視聴者の心が動く気はします」と山下氏も賛同。

では、日本のライブコマース市場の発達は、日本の文化的に発達しづらいのでしょうか。

福積氏は「少し大雑把な言い方をしてしまうと、中国でなぜライブコマースが流行したのか理由は2つ。本物の商品を買えるから、そして安く買えるからです。もし日本のブランドさんが価格設定を見直して、ある配信者の方向けの限定価格で商品を売り出してみたらライブコマースが流行るかも。ブランドさんにとって赤字かもしれませんが、宣伝目的でライブコマース市場に参入すると、消費者の動きも変わってくるのではないでしょうか」と主張します。

中国市場の動向だけでなく、日本のライブコマース市場の発展可能性について触れ、特別講義は終了しました。

【登壇者】

ゲスト:福積 亮 氏
株式会社unbot グローバル統括

新卒でリクルート広告代理店営業職に従事し、その後上海の子会社にて事業開発部の部長に就任。日本企業の設立コンサルや、就業規則策定、人事考課制度の策定、人事労務コンサルティングサービスを日系企業に対して提供。
2016 年、unbot に株主としてJOIN。自身の事業部以外では、業務提携関連も管轄しており、ALIBABA 、ALIPAY 、TENCENT 、DOUYIN、TikTok、TOUTIAO、MEITUAN 等の中国大手プラットフォームとの業務提携を担当。
中国滞在年数が12 年目となっており、活動範囲は、中国国内、日本国内関東、関西、九州エリア。
近年は、EC サイト外部の施策がEC サイトの売上にどれほど直結するかの分析サービスの開発や、事業会社をメインにインバウンド事業の戦略立案と実行をメインに管掌。
得意カテゴリーはスキンケア、メイクアップ、日用品、リテール、IP 関連などなど幅広く管轄している。

ゲスト:志村 優 氏
『ごっこ倶楽部』 統括プロデューサー兼 脚本家
デジタルハリウッド大学非常勤講師

SNS 総フォロワー数150 万人、制作作品の累計再生数11 億回再生を越える『ごっこ倶楽部』のチーフプロデューサー。
10 年以上美容師として美容室の経営を行いながら、エンジニアリングを学ぶ( リクルートエンジニアキャンプで最優秀賞、Ethereum × Dapps ハッカソン準優勝) 異色の経歴を持つ。
その後、株式会社GOKKO に参画。
統括プロデューサーとして、脚本から撮影、編集まで200 本以上のドラマ制作に携わり、2022 年のTikTok Award 受賞に貢献。
脚本家としても、これまで50 以上の作品を手がけており、2023 年から始まった『毎日はにかむ僕たちは。』は、平均再生数200 万を超える。

コーディネーター:山下 智博 氏
株式会社ぬるぬる CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)
デジタルハリウッド大学 中国エンターテインメント研究プロジェクト顧問

大阪芸術大学芸術計画学科卒業後、2012年に上海へ移住し、13年から中国ネットで動画の配信を開始。以後長年に渡り中国に日本の土着文化を紹介する動画を投稿し、650万人を超えるフォロワーを抱える。
近年は日中双方で広告コンテンツや番組制作、プロデュース業を手掛け、その実績をインバウンド事業に繋げる取り組みをしている。
19年にはビリビリ動画より8名しか選ばれない10周年特別賞を外国人で唯一授与され、長年にわたる日中文化交流の貢献を称えられた。
小樽ふれあい観光大使、愛媛デジタルパートナー等を兼務。

モデレーター:吉村 毅
デジタルハリウッド大学大学院 教授
デジタルハリウッド株式会社代表取締役社長兼CEO

早稲田大学 社会科学部卒業、 (株)リクルート、CCC 取締役(創業期メンバー)、エスクァイア・マガジン・ジャパンCEO、GAGA 、カルチュア・パプリッシャーズ(現・カルチュア・エンタテインメント) CEOとし、海外映画の権利輸入、配給、宣伝の総合プロデュースを行う。「セッション」「ルーム」で、買付作品が、米国アカデミー賞を二年連続受賞。他に「キック・アス」「マリリン七日間の恋」など。韓国ドラマでは「イケメンですね」で、第二次韓流ブームを創る。K-POPグループ「インフィニット」を日本でプロデュース。オリコン1位を獲得。デジタルハリウッド大学大学院「日本IPグローバルチャレンジ」PJで発掘した原作小説「千年鬼」(著・西條奈加)のリメイク・アニメ映画企画が、2020年、香港フィルマート併設の国際企画コンテスト「HAF」で大賞を受賞。香港政府からの制作支援金を獲得し香港の映画企画会社でアニメ映画製作中。
現在、デジタルハリウッド株式会社 代表取締役社長兼CEOを務める。

【「中国エンターテインメント研究プロジェクト」とは】

デジタルハリウッド大学大学院では、2024年度より吉村毅教授が担当する研究実践科目ラボプロジェクト「韓国カルチャー&ビジネスコラボ研究ラボ」の開講に続き、同教員が担当する「中国エンターテインメント研究プロジェクト」を開始いたします。
アジアのコンテンツ、ビジネスが世界を席巻する中、特に、世界一の市場であり、また、クリエイティブ&ビジネス人材の宝庫であろう中国に注目し、日本との新たなコラボレーションの形を築きあげよう、という志から本プロジェクトは生まれました。
デジタルハリウッド大学の学部生および大学院生が仕掛けるビジネスやクリエイティブ活動とのシナジーによりに実現していきたいと考えております。
中国での総フォロワー数600万人を越えるインフルエンサー兼コンテンツプロデューサー山下智博氏の活動との発展的協業も視野に入れており、今回のイベントはそのキックオフとして位置づけています。