NEWS
2022.01.20

『AKI INOMATAのつくりかた』参加レポート

アーティストインレジデンス記念ダイアローグ 

2021年12月13日、デジタルハリウッド大学大学院において、『AKI INOMATAのつくりかた』と題した対談が行われた。
アーティストインレジデンスの招聘アーティスト第一弾となったAKI INOMATA特任准教授と、大学院の専攻長の木原民雄教授との対談が非常に興味深かったので、外部からの目線でその印象を軽く綴っておきたい。
このアーティストインレジデンスは、駿河台キャンパスを活動拠点として、アーティストが学生たちや教員と交流しながら、新たな作品づくりを行うプロジェクトである。そのスタートを記念したこのオンラインイベントは、駿河台キャンパスの工房であるLabProtoの前から中継された。

デジタルハリウッド大学は、デジタルコンテンツの創作活動に強い興味を持つ学生が集まってきている。その大学院の方は、専門職大学院として社会実装をメインとしているが、先端的なアートの創作活動を志向する学生も多いと聞いている。
余談だが、俗に美術大学と呼ばれるところを始め、アート&クリエイティブ関係の学部や専攻を持つ高等教育機関は日本に限らず多くある。つまり、アートが人間に必要欠な活動として社会的に認識されている・・・にも関わらず、現代美術を軽く見る人は後を絶たないという印象がある。
個人的な視線でいうと、アートに対して「それがなんの役に立つのか?」と問う人は、先端科学技術の研究開発に対して「それがなんの役に立つのか?」と問う人と同類である。

アートの存在意義とはすごくシンプルで、「人々を幸せにすることに役立つ」ということだと思う。

ところで、AKI INOMATA特任准教授は、生き物と一緒に作品づくりを行うことが多い。
ミノムシの「衣」や、ヤドカリの「家」、はてはビーバーの齧った木材まで、そのインスピレーションは多彩で独創的だ。
そのアート活動そのものは著作や展示会などで触れていただいた方が良いので細かな紹介は省くが、この対談の中で紹介された作品に関しては、自己の生きることの一部を「外部化」する生き物たちの力を借りているものが多い。ヤドカリ然り、ミノムシ然り、外から何かを「借りてくる」ことで、自分の居所を作り出す生き物たち。あるいはビーバーのダムも視点によってはそう言えるのかもしれない。
そこには、よく聞くフレーズである「人と自然の関わり」や「自然との共生」と言った単純な自然礼賛ではなく、生き物による、ある種の本能的な行為が生み出すアウトプットの中にある「何か」を取り出そうとするかのような情動を感じる。それは、「生き物が関わって生み出された作品の作者は誰なのか?」という命題を考える事自体が、作品の意図として含まれているからなのかもしれない。
対談の中では、(要約すると)「自分の内的な心象風景を表現したいわけではなく、作るという行為自体を他者に委ねることで、自己を更新したいという思いがある」といった意味のことを述べておられたが、それこそが創作活動のベースにあるものだと思う。

この視点は、これからアートやクリエイティブを志向する学生たちにとって、非常に重要な概念だと思うので、ぜひ考えてみてほしいところだ。

恐らく、デジタルハリウッド大学大学院が取り組む新しい「アーティストインレジデンス」は、リアルにその過程と触れ続けていられるという、他の場所ではまず得られない、稀有な経験を提供してくれるだろうと思う。「学ぶ」という行為は、結果だけを求めていても本質は得られない。過程を体験することの大切さに思い至らず、ただ検索結果をまとめても、それは知識にも血肉にもならないのだ。

何が自分の内面に新しい創発をもたらしてくれるのか?は、誰にも事前に予測できない。

外部からの知識とも自分自身だけの体験とも違う、他者の行いに触れることができる場所をつくることは、教育にとって非常に重要なことではないだろうか? それは、単に教師による指導を行うことや、教材や教室を用意しておくだけとは本質的に違う。
大切なのは、その意図だ。

このアーティストインレジデンスの経過、そして結果にこれから注目していきたい。

(KH記)

登壇者

プロフィール

Photo by Kenryou Gu

AKI INOMATA

アーティスト / デジタルハリウッド大学大学院 特任准教授

1983年生まれ。2008年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。東京都在住。2017年アジアン・カルチュアル・カウンシルのグランティとして渡米。生きものとの関わりから生まれるもの、あるいはその関係性を提示している。ナント美術館(ナント)、十和田市現代美術館(青森)、北九州市立美術館(福岡)での個展のほか、2018年「タイビエンナーレ」(クラビ)、2019年「第22回ミラノ・トリエンナーレ」トリエンナーレデザイン美術館(ミラノ)、2021年「Broken Nature」MoMA(ニューヨーク)など国内外で展示。2020年「AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき」(美術出版社)を刊行

木原 民雄

デジタルハリウッド大学大学院 教授 / 大学院専攻長

メディアアーティスト、メディアデザイン研究者。青山学院大学大学院博士前期課程修了後、日本電信電話株式会社入社。NTT研究所にて、ネットワークマネジメント、映像データベース、コミュニティウェア、デジタルサイネージなどの研究開発に従事し、サービス企画や研究戦略にも携わる。その間、東京大学先端科学技術研究センター協力研究員などを併任。2007年東京大学大学院にて博士(情報理工学)。2013年より2019年まで昭和女子大学環境デザイン学科教授。2019年4月よりデジタルハリウッド大学及び大学院教授。2021年4月より大学院専攻長。1996年頃よりメディアアートの制作を開始。NTT/ICC「ICC子供週間」などでの作品展示をはじめ、文化庁メディア芸術祭愛知展で木本圭子との作品展示、佐世保市博物館島瀬美術センターの「感じる文学ー動く・触る・薫るー」展の技術監修、アーバンコンピューティングシンポジウムシリーズや共創プラットフォーム研究会などの企画運営を手がけた。1997年Prix Ars ElectronicaのInteractive Art部門でHonorary Mention、情報処理学会山下記念研究賞、2017年情報処理学会マルチメディア通信と分散処理ワークショップ最優秀論文賞など受賞多数。