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2023.01.21

【レポート公開】デジタルハリウッド大学大学院 三淵啓自教授 特別公開講座 『web3 × メタバース』

2022年12月21日、デジタルハリウッド大学大学院では、三淵啓自教授による特別公開講座 『web3 × メタバース』を実施しました。

巨大なIT企業がサービスを管理していたWeb2.0とは異なり、中央集権的ではない分散型のWeb3。数々の企業が投資を発表し注目を集めている3次元仮想空間、メタバース。令和に入り、時代は大きく変わり始めています。

三淵教授は「15年前にもメタバースのブームが巻き起こり、消えていった。しかしその可能性や本質は変わっていない」と話します。今回の特別公開講座は、2004年から本学の教授として教鞭を取りメタバースブームが起こった当時から研究を重ねている三淵教授と一緒に、web3やメタバースの本質について考える時間になりました。

本講座はオンライン(Zoomウェビナー)でライブ配信をしました。

デジタルハリウッドとメタバース

デジタルハリウッドでメタバースの議論が本格化したのは、2009年。総務省のサイバー特区事業として、ネットと現実の融合に関するルール整備や、個人情報をどう保護するのかなどを研究し、メタバースの基盤を考える時代だったと三淵教授は言います。

たとえば現実のショッピングモールでは有線放送で音楽を流していますが、同様に仮想空間でもBGMやプロモーションとして、音楽を活用することが可能です。その場合、誰が、どこで、どのくらいの時間、誰と一緒に聞いたのかなど、アバターの行動ベースで数々のデータを取得できます。

当時のデジタルハリウッドやその他企業では、ユーザーの個人情報はどこまで奪われてしまうのか、メタバース空間の管理者は日本音楽著作権協会(JASRAC)に音楽の利用料を支払うべきなのか、などの議論が行われました。

ちなみに2010年代に三淵教授は、セカンドライフというメタバース空間で、研究室の学生と一緒に「デジタル・アカデメイア」という学校を作ったり、放送局を作ったりしていたそうです。

「約15年前にメタバースブームが来ましたが、個人が所持しているPCで3D空間を描画するのは難しく社会現象にはならなかったんです。それによって企業もメタバース事業から撤退してしまいましたが、近年技術の進歩に伴い再ブームが起きています」と三淵教授は話しました。

Web3時代の根幹となる「ブロックチェーン」

「VR、AR、暗号通貨、NFTなどは最近のインターネットに登場した枝葉のようなもので、注目すべきキーワードは別にある」という三淵教授。Web3時代の根幹となるシステム、ブロックチェーンについても本講座で触れました。

ブロックチェーンは暗号通貨やNFTなどに応用されているシステムで、データを時系列ごとに管理できます。1ブロックごとにデータが格納され、それがチェーンのようにつながっていることから名付けられました。

従来のデータベースと異なるのは、管理者が不在である分散型のデータベースであること。言うなれば、データベースに関係している、すべてのコンピューターが管理者です。

中央集権的なシステムではないため、管理者が運用をストップしてもすべての機能が停止するわけではなく、永続的にデータ管理を続けることができます。

もうひとつ特徴的なのは、データの改変が極めて困難である点です。1ブロック内に、別ブロックの情報が一緒に格納されており、ひとつの情報を書き換えたとしても、その他のブロックの情報を書き換えなければなりません。そのため、すべてのブロックの整合性を保つことは実質不可能な仕組みになっています。

従来よりも安全性の高いデータ管理システムを低コストで達成できることから、大変素晴らしい発明だと三淵教授は主張されました。

その一方で「今は実験段階で、大衆向けのテクノロジーではありません。ブロックチェーン技術を活用した暗号通貨の取引は、その複雑さから営利企業が仲介することが多く、その企業がサービスをストップしたらユーザーは困ります。枝葉の部分では中央集権的状況になっているんです」と、ブロックチェーン技術には活用の余地があることを訴えました。

暗号通貨はブロックチェーン技術の枝葉

その後話は、ブロックチェーン技術そのものが生まれるきっかけとなった暗号通貨について、に移ります。もともとブロックチェーンは、ビットコインの公開取引台帳としての役割を果たすために発明されました。

Web3時代の新しい通貨として期待され、多くの人が暗号通貨へ資金を投入しました。ですが、「ゼロになっても構わない程度の金額ならまだしも、実験段階の通貨に巨額の投機をするべきではない」と三淵教授は言います。

続けて、「暗号通貨と日本円の最も大きな違いは信用担保。日本円の場合、真面目に税金を支払う国民が1億人以上います。しかし暗号通貨には何の担保もないし、今後流通するかどうかは誰にもわかりません」と暗号通貨の仕組みが発展途上であることを強調。

また、暗号通貨のシステムを持続させる、ユーザーにとってのモチベーションである、マイニングについても三淵教授は問題視します。

マイニングとは、データ管理者が第三者として、ユーザー同士の取引履歴をチェックすることです。管理者としての役目を果たした分、その報酬として暗号通貨を獲得できます。しかし近年の暗号通貨の需要増に合わせて、マイニングに伴う電力消費量が国家レベルに到達しているのです。

「暗号通貨やブロックチェーンなどの技術が悪いわけではありません。それをお金目的で利用する人が問題で、テクノロジー本来の可能性が発揮されていません。暗号通貨はブロックチェーン技術によって生み出された、単なるひとつのツールです。いまだ価値があるのか不明なものにエネルギー資源を使うのは、本質的でないように思えます」と三淵教授は疑問を呈しました。

可能性があるのは、Second Lifeのようなメタバース

そこから話は現代のメタバース事情へ。アバター自由度・環境自由度の観点から分類し、メタバースについて三淵教授は解説しました。

たとえば任天堂の「あつまれ どうぶつの森」もメタバースです。アバターを自分で作ることができ、住む場所自体もユーザーの手で設計が可能です。そのほかに近年はVRChatやclusterなども注目されており、コミュニケーションの場として活用されています。

数あるメタバースの中で、よりユーザーの熱が高いのは生産消費者市場型メタバースであると、三淵教授は主張します。教授が長年注目しているのは、2002年にリリースされた老舗メタバース「Second Life」です。

Second Life内では、アイテムや土地の売買ができ、モノを創造することもできる。時間の使い方は自分の自由であり、まさに第二の人生(Second Life)。リリースして20年が経過した現在でも、多くのユーザーが滞在しています。

Second Lifeの大きな特徴の1つは、Web3型のメタバースである点です。

「従来のオンラインゲームと比較して、キャラクターや環境が固定化されず、ユーザー自身がほしいと思うモノを生み出します。運営側はほとんど何も用意しない。熱を持ったユーザーが、ありったけの時間を注いで作られたものがSecond Lifeにあふれているんです」

加えて、Second Lifeがほかのメタバースやサービスと比較して異質なのは、Second Life内で経済圏ができている点。稼ぐのは円や米ドルではなく、Second Lifeで流通しているリンデンドル。リアルの世界からSecond Lifeへ出勤し、生活をしているユーザーもいるそうです。

三淵教授が言うには、Web3時代のメタバースとは、リアルよりも仮想空間内の経済活動が活発な時代です。

「Web2.0時代を席巻したGoogleやFacebookなどは、現実で稼いでいるスポンサーから広告料を受け取っており、インターネット上で大きな価値は提供できていない。むしろデータという価値を提供しているのはわたしたちなんです。自らが生産消費者になれる、Second LifeのようなWeb3型メタバースが、今後注目されるのではないでしょうか」と主張しました。

生産消費者が活躍する「ギルドチェーンコミュニティ」

最後は三淵教授が構想するメタバース「ギルドチェーンコミュニティ」を取り上げました。Second Lifeを参考にした、新たなコミュニティを構築したいと三淵教授は話します。

バーチャルで、ギルド仲間と一緒に価値を創出。それが現実世界へ還元されることで、トークンエコノミーを通してベーシックインフラとして衣食住を提供できるようになる。リアルで提供される価値の源泉が、バーチャルから生み出されるコミュニティを構想しているそうです。

「仕事をするのが社会人だという価値観が “普通” とされていますが、そんなことはありません。自分がやりたいことをして、自分がほしいものを生み出して、それが誰かにとっての価値につながっていく。たとえば誰かを喜ばせることにも十分価値があります。生活の不安が取り除かれて誰もが幸福に過ごせる、サステナブルの空間を作りたいと思っているので、各所でこのコミュニティの話をしています」

三淵教授からメッセージ

デジタルハリウッドは学校というよりコミュニティに近いです。先生だから知識があるとか、物を教える立場というわけではなく、学生の方がわたしより賢いですし、学生から教わることがたくさんあります。

いろいろな人が集まっているのが、デジタルハリウッドの価値のひとつなので、ディスカッションしたりラボで一緒に研究したい人にとっては、適した環境だと思っています。

登壇者プロフィール

■三淵 啓自(みつぶち けいじ)教授

1961年東京生まれ。スタンフォード大学コンピューター数学科修士卒業後、米国オムロン社にて人工頭能や画像認識の研究に携わる。退社後、米国でベンチャー企業を設立。その後日本で、日本Webコンセプツ、米国で3U.COM

Inc.社を設立。ユビキタス情報処理や画像認識システムなど、最先端のWebシステムの開発。2005年、デジタルハリウッド大学大学院・デジタルコンテンツ科専任助教授および、デジタルハリウッド大学大学院、メディアサイエンス研究所・NCG研究室長に就任、(経産省次世代高精細CG合成の研究開発 主任研究員)2006年 同研究所・セカンドライフ研究室長に就任。2008年

メタバース協会の設立に協力、理事に就任。(総務省 サイバー特区における著作権UGCの管理 主任研究員)2012年AITC顧問に就任、2014年 株式会社バーチャルIPプロダクションを設立、代表に就任。2019年 ToposWare、アドバイザーに就任。