EVENT
2022.12.20

【レポート公開】書籍出版記念×デジタルハリウッド大学大学院公開講座「デジタルコンテンツマネジメント学から見るAI画像生成」 

2022年12月2日、デジタルハリウッド大学大学院では、『AIとコラボして神絵師になる 論文から読み解くStable Diffusion』出版記念×デジタルハリウッド大学大学院公開講座「デジタルコンテンツマネジメント学から見るAI画像生成」を実施しました。

本イベントはデジタルハリウッド大学メディアライブラリーでのオフライン開催と、Zoomによるオンライン中継のハイブリッド形式で行われました。

登壇したのは、著者であるデジタルハリウッド大学大学院の白井 暁彦客員教授と『AIとコラボして神絵師になる』の執筆にメディアアート史の観点から協力された同大学院の草原 真知子特命教授です。

書籍の紹介に加え、AIと人類のこれからの関係性などについておふたりが語り尽くす時間になりました。

イベントアーカイブ動画

仕事や趣味に使える、AI先端技術の解説書

2022年8月に公開され話題となった、テキストから画像を生成するAI「Stable Diffusion」。その2ヵ月後というスピードで出版された『AIとコラボして神絵師になる 論文から読み解くStable Diffusion』では、画像生成AIの仕組みや使い方などがわかりやすく紹介されています。

本イベントの冒頭には、白井教授から本の内容について簡単な説明がありました。

第1章は「冒険の始まり:AIとコラボして神絵師になる」。“冒険”という一見壮大なタイトルに思えますが、「決して大げさではなく、Stable Diffusionを活用することで、アドベンチャーゲームのように世界を楽しむことができる」と話す白井教授。画像生成AIの可能性について本書冒頭で言及しており、このようなタイトルになったそうです。

続く第2〜4章では、MidjourneyやStable Diffusionなどの画像生成AIの使い方を解説。本イベントでも、Stable Diffusionの動かし方を白井教授が実演されました。

白井教授からはご自身が作成したソースコードを紹介し、参加者に対してStabile Diffusionを実際に動かしてみるように声をかけました。(※『AIとコラボして神絵師になる』で、サンプルコードを掲載しています)

prompt_text部分に生成したい画像のプロンプトを入力。今回は「odd eyes(オッドアイ)」「silver hair(銀髪)」「cyber space(仮想空間)」など、特徴的なアウトプットが期待されるキーワードを使用しました。すると数秒後には、指定したキーワードに沿ったイラストが出力されました。

「第5章 論文で読み解くStable Diffusion」では、AI画像生成業界の有識者による論文が解説されています。

白井教授は「Stable Diffusionに関連している論文を読み込むと、1本当たり10〜20日かかってしまいます。論文が世に出るスピードと、読めるスピードが釣り合っておらず、AIを研究している専門家でさえも、新しい情報に追いつけない状況です。そのため、どれだけふわっと全体的に理解するかが重要です」と言います。

さらに第7章では、著作権の専門家である弁護士協力のもと、日本の法律とAI神絵師の適法性について展開。Stable Diffusionのライセンスが和訳されており、法律の範囲内でどのような創作活動が可能なのかを解説しています。

第2〜4章のように技術書らしい一面もあれば、第5、7章では画像生成AIの最新情報やそれを取り巻く環境について触れており、これから画像生成AIを活用したい方にとって、本書は強い味方になるはずです。

絵師の頭の中にはない構図を出力する一方、自画像を描くのは苦手なAI

書籍を紹介した後で、白井教授が画像生成AIを活用して生み出した作品が数多く紹介されました。

たとえば、『耳をすませば』を参考にした作品。金曜ロードショーを視聴しながら作業した結果、このようなジブリ風のイラストが生成できたそうです。

先史時代の洞窟壁画と初音ミクを組み合わせたようなイラストも。

『AIとコラボして神絵師になる』の中にも、白井教授の作品が掲載されています。

使用したツールは主に3つ。Midjourneyで背景を生成し、Stable Diffusionで人物を出力、その後Photoshopで組み合わせてイラストを制作しているそうです。

下記のように、猫とパーカーと少女が混ざりあったユニークな作品が生まれたり、女性の背後からりんごを持つ手が出るような、思わぬレイアウトを出力したりすることもあります。

「AIによって自動生成されたイラストを活かすことで、アーティストのクセやマンネリから脱却できる」。AIとアーティストがコラボすることの可能性を、白井教授は強く主張されていました。

また、上記で紹介したように「miku(初音ミク)」や「ghibli(ジブリ)」など特定のキーワードによる画像生成が得意な一方、AIにも苦手なキーワードがあります。それは「self portrait(自画像)」です。

「自分自身を描け」という指令にAIは混乱し、誰かわからない人物画を出力したり、謎の記号やデータらしき模様を生成したりするそうです。「AIに自我を問う哲学的な問い」と、白井教授は興味深そうな様子でした。

アーティストは、画像生成AIを道具のひとつとして活用するようになる

ここからは草原教授がメインスピーカーとなり、画像生成AIに関するご自身の仮説を論じました。

たとえば「AIは創造のための新しい道具であり、アーティストはコンセプトとキュレーションによって作品をつくる」という仮説。

「AIが絵を描けるようになる=人間の仕事が奪われる」と悲観する人が世間にいる一方、草原教授は「絵の具と同じように道具としてAIを活用できる」と、テクノロジーの発展をポジティブに捉えています。

そして白井教授はこう付け加えます。「『AIとコラボして神絵師になる』で表紙を担当されたイラストレーターの852話(ハコニワ)さんは、AIとPhotoshopなどを組み合わせてイラストを制作しています。SNS上で“いいね”が集まる中、AIに描かせないで自分の力で描くべきだ、AIで描いたと言っているのに人間が手を加えているじゃないか、とさまざまな角度から否定的な意見が届く。世間が持つAIやアートに対する考え方が見直されつつある、シンギュラリティに我々はいます」。

AIが道具であるなら、人間はどのように活用すればよいのか。そこで重要なキーワードとなるのが「キュレーション」であると草原教授は言います。現代メディアアートの源流である写真家を例に、キュレーションという考え方について触れました。

「20世紀を代表する写真家、アンリ・カルティエ=ブレッソンは決定的瞬間を捉えたとして評価されています。しかしながら彼が世に出した写真の背景には、選ばれなかった膨大な数のショットがあります。写真家にとって、撮影や現像だけでなくキュレーション(取捨選択)も重要な仕事であり、それはAIを活用するアーティストも同じです。どのAIを使うか、どんな指令を入力するのか、アウトプットされたものの中から何を選び取るのか。キュレーターとしてAIと関わるのが、現状は望ましい」と草原教授は語りました。

画像生成AIが、人間の無意識に影響を与える?

ほかにも草原教授は、「画像生成AIは、わたしたちの心の奥底に潜むイメージを掘り出し、定着させる道具である」という仮説を論じます。

その興味深い事例として、白井教授や草原教授と親交が深いアーティスト、安斎 利洋氏の「夢日記」を紹介しました。

「温泉のある街で、従来の方法では音が出ない楽器群が展示されている。アコーディオンの蛇腹をほかの人に開け閉めさせて鍵盤を弾いてみるが、音が出ない」

この夢を見た1週間後、夢の内容を画像生成AIのプログラムの中に入力した安斎氏。夢の中で見たイメージ通りのものは出力されませんでしたが、アウトプットのひとつに心を惹かれたそうです。それを種として、バリエーション豊かな楽器群を形成しました。

それから2日後、安斎氏は生成された楽器群に影響を受けたと思われる夢を見たそうです。

「青い立体を寄せ集めた文字が、人のいないマンションの床に、定型詩のように並んでいる」

再びこの夢の内容を活用して、画像生成AIが安斎氏の夢日記をイメージ化。このように、AIを巻き込んだ循環がひとりの意識と無意識の世界で起きているのです。

安斎氏はこの体験をもとに、個人に閉じない夢を編み出す試みとして新規プロジェクトを構想中とのこと。今、AIを巻き込んだ新しい試みが各所で起こっていると、草原教授は話しました。

白井教授からメッセージ

最後に、画像生成AIやデジタルハリウッド大学大学院に興味がある方に向けて、このようなメッセージを送りました。

「杉山先生がデジタルハリウッドを設立した25年ほど前は、世間的にCG技術が軽視されており、ピクサーのようにCGで映画を作ろうとしてもお金が集まらない時代でした。現在、CGが映画制作において欠かせないのは周知の通りで、近い将来画像生成AIも広く普及して、より身近なものになるはずです。突拍子もないことを思いついたとしても、仕事が忙しい、家族に迷惑がかかりそう、炎上するかも、と実行に移さないための理由が、たくさん湧いてくるかもしれません。しかし、あえて空気を読まない人が、世界に名前をとどろかせる存在になれると思っています。わたしや草原先生の話の続きに興味を持っていただいた方は、大学院の授業でお待ちしています」

登壇者プロフィール

■白井 暁彦 客員教授

デジタルハリウッド大学大学院担当科目:テクノロジー特論D(人工現実)、研究実践科目(ラボプロジェクト)「超メタバース・エンターテイメント・ラボ」
REALITY株式会社でメタバース時代のUXを研究開発する「GREE VR Studio Laboratory」ディレクター。VRエンタメの研究者・クリエイターとして長い経験を持つ博士(工学・東京工業大学)。日本バーチャルリアリティ学会評議員。
書籍「白井博士の未来のゲームデザイン」(2013年・オーム社刊)、「白井博士の未来のゲームデザイン – エンターテインメントシステムの科学」(2013年・ワークスコーポレーション刊)で未来予測を書き綴り、「創る人を創る」をモットーに活動する。ゲーム開発者・放送技術・フランスでのVR地域振興・日本科学未来館科学コミュニケーター・デジタルハリウッド大学大学院客員教授などVRエンタメの研究開発・産業・体験・SNSなど多様な活動を行う。
2018年よりグリーグループのライブエンターテイメント分野への事業拡大からWright Flyers Live Entertainmentの立ち上げ、および「REALITY」を開発運営するメタバース企業 REALITY株式会社の立ち上げに参加する。国際レベルで重要となる知財開発や学術的挑戦、PoC/UX開発と発信、オープンソースソフトウェアや日本語コミュニティへの貢献、人材発掘/開発を担当。またB2B向けメタバースソリューション「REALITY XR cloud」を通して企業向けのコンサルテーションなどを行っている。本書は業務外の社内部活動「グリー技術書典部」で夏の自由研究として生まれた。

■草原 真知子 特命教授

デジタルハリウッド大学大学院担当科目:先端芸術原論、特別講義J
メディアアート・映像文化史研究者。ICU卒、博士(工学・東京大学)。フリーランスとして活動後、東京工芸大学、神戸大学、UCLAを経て早稲田大学文学学術院/文化構想学部教授、現在は早稲田大学名誉教授、日本大学大学院芸術専攻非常勤講師。1980年代前半にCGとメディアアートのキュレーションと評論を始め、筑波科学博、世界デザイン博等の展示や東京都写真美術館、NTT/ICCの設立に携わる。SIGGRAPH、アルス・エレクトロニカ、文化庁メディア芸術祭、広島国際アニメーションフェスティバル他の審査委員を歴任。デバイスアート、幻燈、パノラマなど芸術と技術と文化の関係をテーマに国内外で講演や出版多数。最近では明治期のエンターテインメントを通じて社会の変化を分析した論文”The Panorama in Meiji Japan: horizontal and vertical perspective”が論文誌Early Popular Visual Cultureのメディア考古学特集号に掲載された(2022年2月)。芸術科学会賞、文化庁メディア芸術祭功労賞受賞、日本バーチャルリアリティ学会評議員。