米光一成「なぜゲームを遊ぶのか、なぜ作るのか。」

“遊ぼうという欲望、つまり遊びの規則を守ろうという意志によってだけ、規則は維持される。こうして人は「遊びを遊ぶ」か、それともはじめから遊ばないか、どちらかを選ぶ”とフランスの批評家、ロジェ・カイヨワが言っています。

ゲームも同様です。遊びたい人たちの間で、ルールを守ることによってルールが維持されて、ゲームははじめて成立するのです。カードゲームやボードゲームなどをイメージしてみてください。カードを1枚引いて1枚出すというルールがあれば、全員がそれを守ります。2枚引いてもいいだろ、1枚捨てたくない、と言い出すとゲームになりません。歩をいっぽいっぽ進めずにいきなり王手!ってできてしまうんだけど、歩はいっぽいっぽしか進めないというルールをお互いが守るから将棋の対局ができるわけです。現実的な要請や効率はまったく関係なく、金持ちもそうじゃない人も関係なく公平に、自分たちで勝手に不自由なルールを守ることを共有する、それがゲームです。

どうしてそんなルールを守るのか。その理由は「遊ぼうという欲望」しかないのです。だからゲームデザイナーは、遊ぼうと思わせないといけない。つまり遊んでいるその場が最高に楽しいものを形作らなければ、だれも遊んでくれない。そのためのありとあらゆる工夫を凝らすのです。

ルールを理解しやすく豊かなものにするために世界観が生み出される。魅力的なキャラクターやグラフィックス、感情を揺さぶる音楽、そういったものを結集して、プレイしてもらう「最高に楽しい場(マジックサークル)」を作り出すのです。ダイナミックなプレイ、最高のインタラクションを生み出すための総合芸術がゲームです。だから、ゲームデザイナーは、楽しさについて賢明に追求します。制作のためのありとあらゆるスキルを習得することを希求します。

ルールを作り出し、ルールを運用することは、現実世界でも大切な鍵です。世界を生きやすく、楽しい場にするためには、ルールをブラッシュアップし、的確に運用する必要がある。ゲームデザイナーは、それを考える力、実現する力を持っていると思います。ゲームデザイナーの活躍の場は、これからもっと拡がっていくでしょう。

米光一成
ゲーム作家・ライター。代表作『ぷよぷよ』『トレジャーハンターG』『BAROQUE』などコンピュータゲームの企画・監督・脚本を手がける。また『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』『あいうえバトル』『負けるな一茶』『言いまちがい人狼』などのテーブルトップゲームも制作。note「表現道場」の道場主。宣伝会議「編集ライター養成講座」講師。著書に『仕事が100倍楽しくなるプロジェクト攻略本』『思考ツールとしてのタロット』など。