新清士『境界を越え、動き続ける。』
Stable DiffusionやChatGPTに代表される生成AIの登場は、これからのゲーム業界をどのように変えていくのでしょうか。生まれたばかりのテクノロジーが秘めるポテンシャルや、それがどのような未来を創り出すのかを明確に言い当てることは難しいですが、少人数、低予算でも世界に通用するゲームの開発ができるようになったのは紛れも無い事実。ひと昔前ならば、さまざまな開発ツールを購入するために莫大な予算を用意し、大勢のエンジニアを抱えてグループワークしなければならなかったものが、いまならネット上にある廉価でありながら、高度な機能を持つゲームエンジンなどのツールを駆使し、生成AIを活用しながらプログラムを組むといったことで、もしかしたら世界市場を狙うゲームがたった一人でつくれてしまうのでは、と思えてしまうほどです。しかし、誰しもが事業参入できるような環境が整ったということは、業界での競争もおのずと激しくなり、ビジネスとして成立させて収益を上げるハードルもどんどん高くなるということ。次々に登場する新しい技術に実際に触れ、自分の感覚に落とし込む。何をどのように組み合わせれば、目指す方向性に近づくのかを見極める。アピールするには、俯瞰した視点から競合他社との違いを明確に示す態度も必要でしょう。
例えばVRは意外な方向に発展しました。VTuberと呼ばれるオンラインで活動する多くの人たちの登場を促しました。単にVR技術が進歩し、ツールが登場したからだけでなく、ソーシャルメディアを通じて、VRにまつわる多様なエンタテインメントやプロダクションが登場したからこそ。このように関連する事業者がユーザーの動向を敏感に捉え、連携していくことで、可能性は無限に広がります。そのためにも世の中で何が起こり、どのような反応を見せているのか。自身が考えていることに、共感してくれる人々がどこにいるのか。常にアンテナを張ること。情報を収集するだけでなく、自ら積極的に発信する姿勢も取りたいものです。
いまやゲームは、小説や映画と同じく、確固たる地位と文化を確立しているメディアの一つ。ときに人と人をつなぎ、コミュニケーションをサポートするなど、社会との関わりも深くなってきています。今後もゲームから派生する技術、サービスが次々に現れ、これまでになかったビジネスや教育のあり方も見えてくるでしょう。曖昧になった現実との境界線をどのようにみるか。動き続けることで、おのずとその答えが見えてくるかもしれません。
慶応義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、生成AIを利用した新作ゲームの開発をしている。アスキーにて、新清士の「メタバース・プレゼンス」を連載中。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』、『VRビジネスの衝撃』など。