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【開催レポート】 デジタルハリウッド大学大学院主催シンポジウム「生成AIと創造、著作権~現状とクリエイターの本音」 | デジタルハリウッド大学大学院 - DIGITAL HOLLYWOOD UNIVERSITY,GRADUATE SCHOOL

作成者: gsdhwac_wp|2023.11.02

2023年9月23日、デジタルハリウッド大学大学院は「生成AIと創造、著作権~現状とクリエイターの本音」と題して、シンポジウムを開催しました。登壇したのは音楽家である渡辺 俊幸氏と太田 雅友、弁護士の池村 聡氏、デジタルハリウッドの教員である上原 伸一教授と草原 真知子教授です。

昨今、文章を自動生成する「ChatGPT」や、画像を自動生成する「Stable Diffusion」「Midjourney」など、学習済みのデータを活用して新たなコンテンツを生み出す、生成AIが話題になっています。生成AIをめぐって、これまでにさまざまなシンポジウムが行われておりますが、著作権者となるクリエイターが登壇するシンポジウムは多くありませんでした。

今回のシンポジウムでは、第1部でそれぞれの有識者が生成AIに関する考え方や問題点などを論じ、第2部ではパネルディスカッションが行われました。

 本シンポジウムの趣旨——上原 伸一教授

著作権を中心とした法と社会や文化の関係を研究している上原 伸一教授は、本シンポジウム第1部の導入として、生成AIをめぐってどんな論争が起きているのかを紹介しました。
たとえば、AIによって生成されたコンテンツの著作権者は誰なのか。AIをツールとして使った人か、AIのシステムを構築した人か、AI自体が著作権を持つのか。そもそもどのようなAI生成物が著作物と認められるかが、明確でない中で、明確な解釈はできていないと、上原教授は話します。 

音楽家の立場から——渡辺 俊幸氏

作曲家の渡辺 俊幸氏は、生成AIにまつわる問題として、そもそも著作権法第30条の4(下記)自体を見直すべきではないかと主張。

“著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。”

渡辺氏は、「AIが発展するのは大いに結構だが、既存のコンテンツが勝手に学習材として生成AIに使われ、学習に使われたコンテンツの著作権者には何の恩恵もない状況はおかしい。もし法改正に至らなくとも、権利者に許可を得た上で生成AIを開発するのが筋ではないか」と、著作権が軽んじられていることに対して危機感を訴えました。 

音楽家の立場から——太田 雅友氏

生成AIに関して渡辺氏から「否」の意見があった一方、作曲家の太田 雅友氏からは、生成AIの可能性という観点で「賛」の意見がありました。

「2023年時点でAIは、プロの作曲家と同様のクオリティレベルで長尺の曲を作ることはできないが、作曲家の補助ツールとしては実用段階にある。たとえばAIは曲からボーカルを分離する作業が非常に得意。現役のレコーディングエンジニアに聞いてもらっても、どこがAIによるものか気づかないほど。数年後には、作曲に関係する仕事の一部をAIが代替する可能性が大いにある」と太田氏は話しました。 

メディアアートの観点から——草原 真知子教授

生成AIをひとつのメディアとして考え、研究対象にしている草原 真知子教授。草原教授は、生成AIが教育の現場に影響を与えていることを紹介。

AIを使って絵を描いた学生が「思い通りの絵を生成するのは難しいが、思い通りにいかないことで面白い方に転がっていった」「自分では考えもしなかったイメージが外部から現れた」という感想を持ったと言います。教育現場では生成AIが実験ツールとして貢献していることを、草原教授は主張しました。 

法律家の立場から——池村 聡氏

池村 聡弁護士からは、著作権問題に関して改めてどんな論点があるか整理されました。

論点①:他人の著作物をAI開発の学習のために無断で利用して良いのかという問題

論点②:AI生成物が既存の著作物に似ていた場合にどうなるのかという問題

論点③:AI生成物の権利は誰が持つのか、著作権は発生するのかという問題

これらの今後の対応策として、たとえば論点①については、著作権法30条の4の改正以外の解決策の例として、AI生成物であることの明示の義務化や学習データ明示の義務化(法律改正による対応)、創作者や権利者への収益配分環境の整備(契約やソフトローによる対応)など、現実的な解決策を提示しました。 

生成AIによるコンテンツに関して、著作権侵害を立証するのが困難

第1部が終了し、ここからは登壇者やシンポジウム参加者を交えた、第2部のパネルディスカッションがスタート。

まずは、日常的にAIを使用しているという太田氏が、著作権侵害の成立について議題に挙げました。

「たとえば、AIには蒸留モデルというものがある。オープンソースとなっている訓練された高度なAIを、別のAIに学習させ容量を軽くしシンプルにしたAIを蒸留モデルというが、仮に、蒸留モデルによるコンテンツが既存の著作物に似ていた場合、著作権侵害を成立させるのは難しいのではないか」

これに対し池村弁護士は「非常に難しい問題。著作権侵害が成立するには、原則として著作権者が自分の著作物のことを認識した上で真似されたということを立証しなければならないが、蒸留モデルによって生成されたコンテンツの場合、立証するのは困難。まさに今、議論されている状況だが、こういうケースにおいてまで立証責任まで著作権者に負わせるのは酷なので、利用者にその著作物は学習データに含まれていないことを立証させるべきではないかという意見もあるだろう」と回答。著作権について現状は、AIの開発者や利用者のモラルに委ねられている状態だと話します。

メディアアートを研究する草原教授は、既存の作品の一部を新しい作品に組み込む「オマージュ」や、ユーモアや皮肉をこめて既存の作品を風刺する「パロディ」について触れました。

草原教授が言うには、メディア(AIを含む)とは何なのかを追求することこそがメディアアートであり、既存の作品をネタにして、著作者から訴えられそうなギリギリを攻めるメディアアーティストが少なくないそう。

たとえば、AIにディズニー作品だけを学習させて、ディズニーの既得権益を皮肉ったパロディ作品を世に出すアーティストが出てくるかもしれない。

そうなった場合、日本の著作権法上は黒となる可能性も出てくると、池村弁護士は話します。「生成AIによるコンテンツに限らず、パロディ作品というのは時折問題になる。日本の場合は著作権法でパロディを直接容認する条文はないので、著作権者が訴えたら著作権侵害になるかもしれない。一方で、著作権者自身が自分の作品をどんどんいじってくれというパロディに寛容なスタンスなのであれば、著作権侵害にはならない」と回答。

池村弁護士からは、著作権侵害に当たるかどうかは最終的には裁判所が判断する問題になるが、パロディ作品を生成するなら、対象作品の著作権者のスタンスも含め、慎重に判断する必要があるとの意見が述べられました。

制作を委託する際、生成AIの使用について当事者間で取り決めをするのか?

シンポジウムの途中には、登壇者以外の参加者にもマイクが渡され、5人の有識者に質問をする場面も。

参加した学生からは「制作委託契約に基づいて作品制作がなされる場合、現在の契約実務では、作品を制作する過程で生成AIを使うことについて、当事者間で取り決めをするのか。黙ってAIを部分的に使うとトラブル、たとえば契約違反になることはあるのか」という質問が投げかけられました。

作曲家の太田氏は「最近は生成AIに言及した契約書が増えてきた。企業によっては、黙って生成AIを使用した場合ペナルティが課せられることもあるかもしれない」と回答。

作曲家の渡辺氏は「わたしはまだ経験がない。生成AIを使用したかどうかは自己申告でしか分からないため、生成AIを使用しないという契約を交わしたとしても調べる術がないのは問題」と回答しました。

また、池村弁護士は「最近は、下請けの会社が勝手に生成AIを使って納品されることを避けるために、発注者が契約書に生成AIに関する条項を盛り込む例も出てきている。具体的には

、受注者が生成AIを使用してコンテンツを作る場合は事前に発注者の承諾を必要とするといった条項が盛り込まれている」と補足しました。

そのほかにも、第2部のパネルディスカッションでは、発展途上のAIによるコンテンツの大量生産問題や、生成AIは人を感動させる曲を生み出せるのか議論が白熱。終了時刻を若干延長し、シンポジウムは終了しました。