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ケヴィン・ケリー氏(WIRED誌創刊編集長)が本学で出版記念講演

『誰もがパイオニアになれる未来~<インターネット>の次にくるもの~』

WIRED誌創刊編集長にして、30年に渡りテクノロジーカルチャーを見続けてきた世界的なビジョナリーであるケヴィン・ケリー氏が、新刊「<インターネット>の次に来るもの-未来を決める12の法則-」(原題”The Inevitable: Understanding the 12 Technological Forces That Will Shape Our Future”)の刊行を記念して来日。2016年7月21日、デジタルハリウッド大学にて特別講演を行った。

講演では、未来を形づくることになると同氏が予見している12種類の「不可避」なテクノロジーの潮流のうち、「コグニファイ」「インターアクション」「トラッキング」の3つのテーマを取り上げ、これからはじまるデジタル時代について熱く語った。

 

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なぜテクノロジーの未来が予見できるのか?

3つのテーマに入る前にお伝えしたいことがあります。テクノロジーは好むと好まざるとやってきます。私たちに選択の余地はありません。まずはそのことを理解することが大切です。本のタイトルである「The Inevitable(不可避)」とはそういう意味です。また、将来どのようなテクノロジーがやってくるのかもある程度予見できます。なぜならテクノロジーは、複数のコンポーネントから成り立つシステムのようなものであるからです。

たとえば、私がいま握っているマイクというテクノロジーはコンピューター、バッテリー、無線など個別に進化したテクノロジーが互いにつながりあってひとつの大きなシステムを構成しています。そして大きなシステムになればなるほど特定のパターンを繰り返すようになります。たとえば地球と同じように重力があって生物もいる惑星があったとしたら、重力に対抗しやすく安定性のいい四本脚の動物が存在するであろうことは想像が付きます。それが生物学的なパターンだからです。物理の摂理に従っている限り、大きなシステムは必ず一定方向へ傾きます。それが長期トレンドの正体。だから将来の方向性は予測できるのです。

ただ、トレンドは予見できても個別具体的なことは予見できません。四本脚という「形態(フォーム)」は予見できても、その惑星にシマウマという固有の「種」がいるかどうかはわからないのと同じです。テクノロジーにも重力があり、傾きがあり、トレンドがあります。よってその方向性は不可避なものではありますが、企業、商品、人などは予測できないのです。たとえば電話は不可避な形態ですが、iPhoneは予見できませんでした。インターネットも不可避な形態ですが、ツイッターは予測できませんでした。よって、今回取り上げる3つのテーマについても、電話やインターネットのレベルの、不可避だと思われる事柄についてのみお話をしたいと思います。

 

AIの世界で起きたパーフェクトストーム

あらゆることをスマートにするというトレンドは不可避です。ただ、それを端的に表す単語がないので古めかしい言葉である「Cognify(コグニファイ)」と呼ぶことにします。

現在、コグニファイのテクノロジーは「ニューラルネット(ディープラーニング)」「GPU」「ビッグデータ」という3つの個別のテクノロジーの登場によって変革期を迎えています。それらが合わさることでまるでパーフェクトストームと呼べるような現象が起き、新しい形のAIが可能になりました。その結果、グーグルがアルファ碁というAIを開発し、世界トップレベルの囲碁棋士を破ったのです。クリエイティブなAIでしか、なしえないことでした。

そしてさらにグーグルは現在、AIにビデオゲームの遊び方の学習方法を教えています。「遊び方」ではなく「学び方」です。なんとなく制約を感じさせる人工「知能」から、より自由度の高い人工的な「スマートさ」への移行が起きています。きわめて重要な前進だと思います。

 

「人間らしさ」がないことがAIのベネフィット

すでにコンピューターは人間よりスマートです。あなたの電卓はあなたより計算が得意ですし、あなたのGPSはあなたより空間ナビゲーションが得意です。そしてこうしたコンピューターには人間らしさはありません。実はここが重要なのです。なぜAIを車に搭載して自動運転を目指すのか? それは人間がひどい運転手だからです。最近、自動運転の車で死亡事故が起きたそうですが、人間が運転していれば毎年世界で100万人以上の方がなくっています。AIは人間のように注意が散漫になったり、パニックになったりすることはありありません。広告文句にもある「Conscious-Free」はAIのベネフィットであってバグではないのです。

 

人間の思考におけるコペルニクス的な転回

知性というと「頭が悪い状態」から「スマートな状態」に向かってリニアに進化していく1次元的な直線だと思われがちですが、実際はさまざまな楽器によるシンフォニーのようなものです。演繹的な推測、感情的な理由づけなど、何十、何百もの思考機能が集まってひとつの思考を形成しています。人間も、動物も、そしてAIもそう。楽器の数やそれぞれの音の強弱が違うだけです。

よって今後はAI研究においてさまざまな楽器についての可能性やあり方について検証が進むことになります。そしてその結果、「人間の知能」についてコペルニクス的な転回が起きると思っています。人間は自分たちの知能をあたかも汎用的なものと信じがちです。人間の知能が世界の中心にいて、マイナーな知能がそのまわりを衛星のようにまわっていると。しかし、今後、さまざまな用途に応じた知性を作っていくと、人間が「汎用的」だと思い込んでいた人間の知能は実はきわめて固有なものであり、銀河系の隅にいるようなものであることに気づくはずです。

そこで重要になってくるのが、違った考え方をする(Think Different)という発想です。これがニューエコノミーにおいて富の基盤となります。なぜならAIはすでにそれを実現しているのですから。

 

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AIによって引き起こされる第2次産業革命

1920年代まで「パワー」というものは人間なり動物なりの物理的な筋肉を使うしかありませんでした。そこに人工的なパワーとしての電力が供給されるようになり第1次産業革命が起きました。現在でも町を見渡せば高層ビルがあり、鉄道があり、工場があります。われわれの筋肉では行えないことを人工的なパワーによって何百万倍もの掛け算をしているわけです。それと同じようなことをいま「知能」でもしようとしています。第2次産業革命の到来です。

電力がコモディティ化されたように知性もコモディティ化します。好きなだけAIを買えるようになるでしょう。よって今後登場する1万社のスタートアップ企業が何をすべきかは明確です。

「Xを選んで、それにAIを足す」

たとえば「椅子」をとってAIを足す。「靴」をとってAIを足す。それはすでに起こっています。タクシーをとってAIを足せば、Uberです。また、現在すでにグーグルに行けばAIを使うことができます。たとえばテニスをしている人物の写真とともに「男性か? 女性か?」「女性の服の色は?」「ボールの色は?」と質問するとAIが答えてくれます。しかも100問の質問でかかるコストはたったの6セント。それをどう活用するかはみんなが自問していることです。1次産業革命のときがそうだったように、2次産業革命も大きな変化をもたらします。それを可能にするのが人工知性(Aritificial Mindpower)なのです。

 

30年後にはトラック運転手の仕事はなくなる

アメリカで最も多い職種はトラックの運転手で300万人もいます。しかし、20年後にはその半分が、30年後には全員がその職を変わらなければいけないと言われています。ただ、自動走行が普及すれば車両やプログラムのメンテナンスが必要になります。こうした仕事はいま存在しなせんが、将来必要になる職種です。このように、効率性や生産性が重視されるタスクはAIやロボットにとって変わります。

では人間に残る仕事は何かというと、効率性が最優先されないものです。たとえば科学やイノベーション。これらの領域はうまくいかないものを試行錯誤しながら実現しようとするものなので、本質的に非効率です。また、人間関係も非効率ですし、芸術も非効率です。こうした分野はAIよりも人間の方が得意です。

 

ケンタウルスが主役になる時代へ

世界のチェスチャンピョン、ガルリ・カスパロフがIBMのスーパーアイコンピューター、ディープブルーに負けたとき、こう思ったそうです。「負けたのはAIが過去の試合のデータベースをすべてもっていたから。もし自分が同じデータベースにアクセスできていたら勝てただろう」と。そこで彼は新しいチェスリーグを設立しました。プレイヤーは「人間」か「AI」、あるいは「人間+AI」です。

そして彼は「人間+AI」のことをケンタウルスと呼びました。そして今日、地球上における最強のチェスプレイヤーは、人間もAIでもなく、ケンタウルスです。あらゆるものがスマートになり、人間がAIやロボットと協力するようになるトレンドは不可避です。ただ私たちがどうやってAIを設計するか、そしてどのような形で協力するかという具体策については、選択肢が大いに残されています。

 

VRこそ究極のインターアクション

2つ目のトレンドは「インターアクション(相互作用)」です。映画で描かれる未来では人間がコンピューターと全身でインターアクトしているように、相互作用の増大は不可避です。そして究極の相互作用といえば、コンピューターのなかに入りこむこと。仮想現実、VRです。

VRは長年研究されてきました。私も1989年ごろからVRのイベントなどを行っています。最近ではオキュラスなどが有名ですが、89年当時の技術はオキュラスと比べても言うほど劣っていたわけではありませんでした。もっとも違うのは価格です。当時は1台作るのに現在価格で100万ドル。なぜいまVRが再燃しているかというと技術的なブレイクスルーがあって価格が下がったからです。とくに加速度計やジャイロスコープなどのセンサー、高解像度スクリーン、ビデオプロセッサーの3つのコンポーネントはスマートフォンのコモディティ化で非常に入手しやすくなりました。VRの開発速度が一気に早まっている要因です。

 

「知る」から「感じる」へ

VRは大きくわけて2種類あります。ゴーグルで視界がすべて遮られる没入型VR(Immersion VR)とグーグルグラスやポケモンGOなどに代表される現実世界に仮想世界を投影するプレゼンスVR(Presence VR)です。後者のことをMixed Reality(MR)とも言います。技術的な難易度が高いのはMRです。

いずれの種類でもVRで最も重要なことは「体感」できることです。たとえば没入型VRの世界で突然床が抜けて崖っぷちに立っていたら、頭は「自分は部屋のなかにいるから大丈夫だ」と思っても、筋肉や心臓は実際に危機的な状況に直面した時と同じ反応をします。このように、VRは知性に関わる前頭部よりも、脳のより原始的な部分に作用します。

とくに今後注視したいのがテレプレゼンス。マイクロソフトのホロレンズを試してみたことがありますが、そこにいないとわかっているのに「いる」と感じてしまうのです。その経験の大きさは、スカイプやフェイスタイムや電話会議などとは比べものになりません。「知る」ではなく、「感じる」ことができるのがVRの最大の特徴です。

 

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「経験」が通貨になる

現在のインターネットが扱っているのはナレッジや情報、データです。ですから現代は「情報のインターネットの時代」と言えるでしょう。しかし、これからは「経験のインターネットの時代」になります。経験を買ったり、売ったり、シェアしたりする。「経験」がこれからの新しい通貨になるのです。VRが提供する経験とは、知的な経験やドラマチックな経験だけではありません。たとえば病気のときに誰かが近くにいてくれるという経験であったり、デモを目の前でみる経験であったり、あらゆる種類の経験が対象となります。VRで学習をすれば全身で経験することになるのでより深く理解でき、より長い記憶として刻まれることでしょう。教育以外にも、仕事のあり方、エンターテインメントのあり方、そして軍のあり方も変わります。

 

ソーシャルメディアの舞台はVRの世界へ

VRで最後に強調しておきたいポイントは他人の存在です。VRが最も魅力的なのは第三者がその世界に入ってくるところです。その世界では人々は自分の分身であるアバターを使い、そのアバターは自分の体の動きや声、微小な表情までを反映するようになるでしょう。「アイコンタクト」「ボディランゲージ」「声」。この3つが揃えばリアル感が高まるからです。そうなると、いくら見た目が漫画のようなキャラクターであっても、現実にそこにいる感覚を味わうことができます。その結果、VRは人々がインターアクトする中心の場所となり、ソーシャルメディアのなかでもっともソーシャルな存在になるでしょう。

 

「トラッキング」がもたらす究極の監視社会

最後のテーマは「トラッキング」です。とくにVRは究極的なトラッキングの世界だと言えます。自分の感情や行動、視覚情報などすべてを観測するからこそ仮想世界が作れるわけであり、観測できるということはトラッキングできるからです。すでに世の中は定量化のアイデアやテクノロジーによって、だれかが思いつくことはだいたい追跡できる社会になっています。くしゃみの回数や自分の気分など、いまこの瞬間も世界のどこかでトラッキングしている人がいます。

「トラッキングできるものはすべてトラッキングされるようになる」

この流れは不可避です。

もし小型の機器を使って脳波や血圧、心拍数といった身体的なデータを生涯トラッキングできるようになったら生涯にわたるカルテができます。そのカルテがあれば自分にとっての正常値と異常値がわかるようになるので治療を施されるときには究極的にパーソナライズドされたサービスが受けられることでしょう(投薬を受けたらその反応をリアルタイムにトラッキングして、薬を調整するといったように)。これがトラッキングのもたらすベネフィットのひとつです。ただ、トラッキングは自分のログを取るだけではありません。ほかのひともあなたのことを絶えずトラッキングしようとします。政府や企業、そしてフェイスブックのタグ付けのように、あなたの友人も。観測できるものはすべて観測される。この流れも不可避です。

観測したものをどう活用するかは未知数です。トラッキングの世界を安心できるものにするひとつの普遍的な方法があるとすると、私がCo-veillanceと呼ぶ「共監視」という方法があります。自分を監視するものを監視し、自分を追跡するものを追跡する、シンメトリーな関係です。かつての私たちは小さな村に住み、お互いを監視しあって安心して暮らせていたわけですから。

 

オープンかクローズドか

トラッキングを考えるとき、1つの設定スライダーを考えないといけません。片方が「プライベート(クローズド)」で、片方が「透明性(オープン)」です。フェイスブックの公開設定のように、私たちはそれを任意で選ぶことができるべきです。スライダーを透明性に振った場合のアドバンテージは、先ほどの治療の話のようにあなた固有のサービスが受けられることです。ただ、そのためには自分がどのような人間で、どういった特徴があるのか開示しないといけません。一方、プライバシーを守ろうとしたら、きわめてジェネリックな、ごく平凡なサービスしか受けられないことになります。

ただ、現時点では多くのひとは限界までオープンにスライダーを動かす傾向があるようです。フェイスブックやツイッターがその証拠です。選択できるのに最大のパーソナライゼーションと最大の透明化を選ぶ。この現象を英語で要約すると「vanity trumps privacy(虚しさはプライバシーを凌駕する)」と言えるでしょう。

 

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不可能なことを信じよう

将来とは元来、信じがたいものです。30年前の人からすれば現在の世界は信じがたい世界に違いありません。30年前の人に「30年後には絶えず更新されるすごい百科事典があって、どんなことでも調べられる。しかもタダで」と言ったら「ありえない」と言われるでしょう。よって30年後の未来も私たちの想像を超える世界になっていることでしょう。だからこそ、私からは以下のメッセージを送りたいと思います。

We have to believe in the impossible more often.
(不可能なことをもっと頻繁に信じなければならない)

今日お話しした変化は、「はじまりが誕生した瞬間」にすぎません。24時間で言えば、まだ最初の1時間目です。現在、AIやVRを研究する人たちであっても、30年先の人からすれば「それでエキスパートとは言えないよ。まだ何もはじまっていないじゃないか」と言われるかもしれないのです。

次の20年における最高のプロダクト、実際に文明を支配するような商品はまだまだ発明されていません。いまからはじめても、決して遅くないのです。

 

(文・構成=郷和貴)

 

登壇者紹介

本講演は、ケヴィン・ケリー氏の新著『<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則』(NHK出版)の訳者である服部桂氏と、デジタルハリウッド大学大学院 メディライブラリー館長で、本学にて科目「データサイエンス基礎」で教鞭を執る、橋本大也氏のコーディネイトにより開催されました。

 

プロフィール

ケヴィン・ケリー|KEVIN KELLY

著述家・編集者。1984年から90年まで『ホール・アース・レヴュー』の発行・編集を行う。93年には雑誌『WIRED』を共同で設立。以後、99年まで編集長を務める。現在は、毎月50万人のユニークヴィジターをもつウェブサイトCool Toolsを運営。2014年6月に『テクニウム──テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)を刊行。

 

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プロフィール

服部桂|KATSURA HATTORI

1978年に朝日新聞社に入社。84年から86年までAT&Tとの通信ヴェンチャー(日本ENS)に出向。87年から89年までMITメディアラボ客員研究員。科学部記者や雑誌編集者を経てジャーナリスト学校シニア研究員。著書に『人工現実感の世界』(工業調査会)『人工生命の世界』(オーム社)『メディアの予言者』(廣済堂出版)。訳書に『デジタル・マクルーハン』『パソコン創世「第3の神話」』『ヴィクトリア朝時代のインターネット』『謎のチェス指し人形「ターク」』『チューリング 情報時代のパイオニア』(以上、NTT出版)『テクニウム』(みすず書房)など多数。

 

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プロフィール

橋本大也|DAIYA HASHIMOTO

デジタルハリウッド大学 教授 / デジタルハリウッド大学大学院 客員教授 / 多摩大学大学院経営情報学研究科 客員教授

幼少時よりコンピュータに親しむ。早稲田大学政治経済学部在籍時に最初の起業を経験。自ら主宰したオンライン・コミュニティにおける実績と人脈を使って、2000年に自然言語処理と機械学習をコアにしたビッグデータ分析ベンチャーのデータセクション株式会社を設立。主な著書に『情報力』(翔泳社)、『情報考学―WEB時代の羅針盤213冊』(主婦と生活社)、『アクセスを増やすホームページ革命術』(毎日コミュニケーションズ)、『新・データベースメディア戦略』(共著/インプレスジャパン)、『ブックビジネス2.0』(共著/実業之日本社)、『データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人』(ソフトバンククリエイティブ)など。

 

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  • ケヴィン・ケリー氏(WIRED誌創刊編集長)が本学で出版記念講演

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