香田夏雄「より人間らしく、楽しいデジタルの世界」

パソコンもスマートフォンも手にしていなかった時代からわずか20〜30年で、世界は一気にデジタルの波に飲み込まれました。いまや小さな子供からお年寄りまでがデジタルデバイスを持ち、インターネットを活用しながら多様な情報やサービスにアクセスしています。しかし、一方でデジタルが便利で身近な存在になった分、仕組みの単純なものも増え、チープなデジタルは奥行きもなく、一度はユーザーを惹きつけられてもすぐに飽きられてしまうという状況が繰り返されているようにも感じます。

アナログでは決してたどり着けないような高次・高度的価値を、デジタルが実現し、より豊かな時代を作り出すべきではないか。そんなふうに話すと、人知を超えたとてつもなくハイパーな世界を目指しているように思われるかもしれませんが、実はもっと人間の身近なところをサポートするものが今後増えてくると私は考えています。

スマートフォンは、最もわかりやすい一例でしょう。同じ機能を持つものでも、ユーザーのセッティングや使い方次第で、どんどん複雑かつ詳細にアレンジされ、その人にもっともマッチした個性を持ち始めます。このように、個人にフィットした使用感を追求するために、近年ではセンシングやバーチャルテクノロジーといったデジタルの先端技術を生かした人間拡張技術や人間体感技術の研究も進んでいます。

さらにはeスポーツの世界では、ユーザーの体力や運動神経や各競技の専門性を気にすることなく、新しい領域で自分なりのスーパースターを作り上げることすらできます。ここに、従来のショウビズやエンタテインメントの要素も加味し、リアルタイムで世界中の人々が熱狂するカルチャーが完成しているのは、まさにデジタルの醍醐味でしょう。

このようにデジタルは、ものの大小に関わらず、独自のフレキシビリティを発揮して、マスからニッチまで幅広く対応できます。精巧なものづくりの精神をもとに近代日本は成長を続けてきましたが、遡れば2000余年の歴史のなかで培った知恵という大きな蓄えがある国です。より自由で、深い精神性から、幅広い視点をもった夢のあるプロジェクトが生まれてくると信じています。

香田夏雄
ソニーにて、3DCG技術の研究開発を経て、ゲームやカーナビ等の製品開発に従事。ヒュージスケールリアリティ、インテグラルヴィジョン、ミライセンスを起業するなど、テックベンチャーの立ち上げに参画。2014年より、デジタルハリウッド大学大学院専任教授に。担当科目: テクノロジー特論E、プロダクトプロトタイピングⅡ、テクノロジープロダクトプランニングラボ