インタビュー

テレビとWebの"いいとこ取り" 「AbemaTV」が目指すニュース番組の新しい形

20年以上にわたり、テレビ朝日で番組制作の最前線をひた走ってきた鎮目博道さん。そんな生粋のテレビマンが、本大学院での学びを機に、新たなプロジェクトに挑んでいます。それが、テレビ朝日とサイバーエージェントの合弁会社によるインターネットテレビサービス「AbemaTV」。テレビクオリティを保ちつつ、取材体制や撮影手法を刷新し、デジタル・ネイティブ世代に向けた新しいニュース番組を制作しています。本大学院での学び、「AbemaTV」の取り組みについてお話をうかがいました。

実務に役立つICTに加え、
幅広く学べるのがデジタルハリウッド大学院の魅力

 

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-はじめに、デジタルハリウッド大学院に入学した経緯を教えてください。

 

 僕は長らくテレビ朝日のディレクターとして、ニュース番組の取材やロケを行なってきました。でも、30代にさしかかった頃から、現場を離れて番組の管理側に回らないかと打診されるようになって……。最初は断り続けていましたが、40歳を前に断りきれなくなりました。その際「せっかく管理側に回るなら、この機会にスキルアップしたい」という気持ちが芽生えたんです。

 

 改めて我が身を顧みると、テレビやニュースなど自分が携わってきたことについてはわかりますが、それ以外のことがわかりません。忙しさにかまけて、いつしか“専門バカ”になっていたのです。「僕の市場価値ってどうなんだろう」と疑問を抱き、「もっと見聞を広めなければ」と危機感を覚えるようになりました。

 

 そこで始めたのが、自分とは違う業界の人たちと飲みに行き、仲良くなること。そして、映画を観ること。こうして自分の世界を広げるうちに、「勉強を再開しよう」という気持ちが芽生えてきました。そんな時、ふと「大学院に行こう」と思い至ったのです。大学院なら、自分とはまったく違う生活をしている人、年齢の離れた人にも出会えますよね。せっかくならいろいろな人がいそうな大学院を探そうと思い、ネットで調べたところデジタルハリウッド大学院を知りました。

 

 

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-もともとデジタルやICTに興味があったのでしょうか。

 

 弁護士や検察官を目指して法科大学院に行こうか、映画を撮るために芸大に通おうか、いろいろな大学院を検討しました。迷った挙句にデジタルハリウッド大学院を選んだのは、どこよりも幅広いことが学べそうだから。いちばん尖っていそうですし、ネーミングもユニークですよね(笑)。

 

 それに、実はテレビ局ってITリテラシーが低い傾向があるんです。いまだに「原稿はパソコンで打つより、手書きのほうがラク」という人もいるほど(笑)。とはいえ、テレビ業界を取り巻く状況も変わり、放送と通信の融合など関連ビジネスの幅も広がりつつあります。映画の大学院に行くより、ICTを学んだほうが実務にもつながるはず。そのうえ、デジタルハリウッド大学院ならビジネス、映像などさまざまな専門分野を学べる点に惹かれました。

 

 さらに、仕事と両立できそうなカリキュラムも魅力でした。当時はちょうど時間の融通をつけやすい番組を担当していた時期。平日夜と土曜日を利用すれば、会社で働きながら無理なく通えると思いました。

 

各界のエキスパートが、業界のビジネス構造をレクチャー
デジタルハリウッド大学院には本当の実学がある

 

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-実際に本大学院の授業を受け、どのような点に魅力を感じましたか?

 

 目から鱗だったのは、いろいろな仕事の仕組みがわかったこと。たとえば映画業界なら、撮影方法は僕らテレビマンでも想像がつきます。でも、映画ビジネスの仕組み、収益構造などは明確にはわかりません。どのように資金を集め、劇場の取り分はどれぐらいで、どのように販売していくかという構図がわかったのが大きな収穫。もちろんそれ以外にも、アニメやゲームなどさまざまな業界の構造がわかりました。

 

 そもそもデジタルハリウッド大学院で教えている方の中で、いわゆる「先生」は少数派。多くは企業の社長、長年その業界に携わってきた実務家、エキスパートなんです。そういう方々から聞く話は、ものすごくリアル。「実学」という言葉がぴったりです。僕は実業高校出身なので、実学という言葉は良く耳にしてきましたが、この大学院には本当の実学がある。会社に入らないとわからないこと、その業界で働かないとわからないことが転がっている大学院なんです。現にデジタルハリウッド大学院で学んだことは、今の仕事にも大きく役立っています。

 

 しかも、大学院で学ぶ院生たちも、さまざまな企業で働く方々。仲良くなれば、その業界の話も聞けます。先生はもちろん、同じ院生からも知識を得られる。それが他の大学院とはまったく違う、大きな魅力でした。

 

デジタル社会の大枠を教えてくれる学長の授業が
事業の方向性を決める指針に

 

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-特に印象に残っている授業はありますか?

 

 元LINE代表取締役社長、現C CHANNEL代表取締役の森川亮先生の授業は印象に残っています。他には「日経エンタテインメント!」編集委員の品田英雄先生。品田先生の授業では、さまざまなゲストの方を呼ぶんです。同じエンタテインメントビジネスにいる方々のお話をうかがえたのは、印象深かったです。ちなみに、デジタルハリウッド大学院の縁で、現在僕の番組のレギュラーコメンテーターもお願いしています(笑)。

 

 他には、小倉以索先生のCGの授業も実務に役立っています。テレビのニュース番組では、事故の再現などでCGを多用します。CGを基礎からきっちり教えていただいたため、どれぐらいの時間があればどの程度のCGができるのか想像がつくようになり、発注がうまくいくようになりました。

 

 また、杉山知之学長の授業にも大きな影響を受けました。今、テレビ業界の人々は「テレビ番組だけ作っていても未来がないのではないか」と不安と焦りを感じています。「変わらなきゃ」とみんなが思っているんです。そんな中、僕が任されたのがインターネットサービス「AbemaTV」。まったく新しいことをやるように言われたため、この仕事には頼れる先輩はいません。そんな時、どこに向かって進むべきか方向性を定めるのに役立っているのが、杉山学長の授業なんです。学長は、これまでどのように社会が変革し、今後テクノロジーはどのような方向に向かっていくのか、デジタル社会の大枠を教えてくれます。学長の授業を聞いていなかったら、今この仕事をできていないかもしれない。そう思うほど、僕の指針になっています。

 

 デジタルハリウッド大学院は、大きな枠組みや舵を切るべき方向を杉山学長が教え、それを取り囲むように専門分野の授業が行なわれているイメージ。身につきやすい、理にかなった構図だと思います。

 

大学院での学びを活かし、「AbemaTV」の立ち上げに参加
Webとテレビの橋渡し役としてプロジェクトに貢献

 

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-先ほど「AbemaTV」の話が出ましたが、このプロジェクトに関わることになったきっかけを教えてください。

 

 テレビ朝日に入社以来、僕はほぼ一貫してニュースの部署にいました。それが2015年7月、地上波以外のニュース制作を担当するクロスメディアセンターに異動することになったのです。この部署で取り組んだのが「AbemaTV」。7月から9ヵ月かけて準備し、2016年4月から番組がスタートしました。

 

 「AbemaTV」は、無料でテレビ番組が観られるインターネットテレビ局です。要は、スマホでテレビをやってしまおうというプロジェクト。テレビ朝日とサイバーエージェントが合弁会社を立ち上げ、このサービスに着手しました。現在は「AbemaTV」のメインとなる「AbemaNewsチャンネル」を手がけています。

 

 そもそも僕がこの部署に異動になったのも、デジタルハリウッド大学院に通っていたからだと思うんです。「AbemaTV」に関わる前、Webとの融合を意識した地上波のニュース番組「ポータル ANNニュース&スポーツ」を制作していました。それも「デジタルハリウッド大学院に通っているんだよね、ネットには詳しいよね」ということで、僕に回ってきた仕事。その延長線上で、「AbemaTV」に携わることになりました。

 

 9ヵ月間の準備期間は、毎週サイバーエージェントの藤田晋社長や担当の方々とミーティングを重ねました。そこで言われたのが、「鎮目さんってテレビ業界人っぽくないよね」「ITリテラシーが高いですね」ということ。きっとデジタルハリウッド大学院で学んだ素地があったから、一般的なテレビマンと発想が違うんでしょうね。確かに、サイバーエージェントの方々が何を求め、どんな発想で意見を言っているのか、僕には手に取るようにわかるんです。テレビ業界のスタッフに「もっとこうしなきゃ」と意見を言えるのも、IT業界のことがある程度わかっているから。すべてデジタルハリウッド大学院で学んだおかげです。

 

 

インターネットサービスのノウハウをテレビに還元したい
旧体質のテレビ局を少しでも新しくするのが僕の目標

 

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-「AbemaTV」は、立ち上げから藤田社長が直々に関わっていたんですね。

 

 「AbemaTV」の強みは、まさにそこなんです。テレビ局が独自でインターネットテレビ局を始めても、絶対に「AbemaTV」のようなサービスにはなりません。テレビは、戦後まもなく始まった古い業界です。テレビ局で意思決定をする人たちも、今では年配の方々ばかり。考え方も保守的になりつつあるのは確かです。ただ、今回の「AbemaTV」に関しては、弊社の代表取締役会長・早河洋が「藤田さんのセンスに懸ける。プロデューサーとしての藤田さんを信じる」と言い、テレビ朝日側はあまり口を出さないようにしています。だからこそ「AbemaTV」はうまく軌道に乗り、ご好評をいただけたのだと思います。僕らも藤田社長のコンセプトを聞き、それを体現するための番組づくりを行なったため、ブレずに制作できました。

 

 

-UIも軽快で、非常に素晴らしいサービスです。

 

 サイバーエージェントの技術力の賜物です。一方で、僕らも番組制作にあたって新しいチャレンジを試みているんです。テレビはフィルムで撮っていた時代から、ワークフローがほとんど変わりません。取材も大がかりで、たとえば専門家に話を聞くにしても中継車を出して何十万円もかけています。そこで僕が考えたのが、テレビの機材を捨てること。僕の番組「AbemaPrime」では取材も中継もテレビカメラを廃止し、iPhoneを使っています。これならほぼ無料で、世界と中継を結べるんです。編集も旧来のやり方を取りやめ、新しいテイストで編集できるようデジタルハリウッドのアルバイト学生にもお願いしています。正直、編集ソフトや画像ソフトの扱い方に関しては、ベテラン社員よりもデジハリ生のほうがスキルは高い。彼らの先生として、デジハリ生を呼んでいるようなものです(笑)。他には、フリップも廃止して代わりにiPadを使うように。会議もほぼ開かず、基本的にSNS上ですべての業務を終わらせます。ワークフローを簡略化することで、スタッフの人数を増やさなくてもいろいろなことができるようになりました。

 

 その反面、テレビクオリティを保つために心がけていることもあります。たとえばスタジオは、インターネット放送局のスタジオ規模とは桁違いの資金を使っています。出演者の顔ぶれも豪華。要するに、テレビの良い部分を残しつつWebの優れた部分を取り入れてハイブリッド化した、新しい形のテレビを目指しているんです。

 

 こうした戦略も、すべて藤田社長によるもの。コンセプトは、テレビクオリティの豪華さを保ちつつ、「ながら見」ができる番組。スマホを手放さない人は、アプリ、メール、ゲーム、ニュースサイトをチェックしてもまだスマホを見続けます。その時に何を見るかと言ったら、これからは動画でしょう。動画を「ながら見」して時間を潰す時に、第一選択肢となるようなサービスを作ろうというのが僕らの狙いです。

 

 

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-「AbemaTV」は、テレビとネットの融合の新たなスタイルを確立しつつあります。

 

 テレビ局がインターネット事業に参入すると、ネット向けのコンテンツを作ろうとします。でも、僕の目標は違うところにあるんです。目指すは、インターネットサービスの考え方を、テレビにフィードバックすること。僕が今「AbemaTV」で取り組んでいることは、すべて既存のテレビでもできることです。インターネットサービスの考え方を取り入れ、古い体質のテレビ局を少しでも新しく変えていけたらと思うんです。今はまだ、想像もしていなかったトラブルにぶつかり、四苦八苦することも多々あります。それでも壁を乗り越えてワークフローを新しくすれば、それはきっとテレビ放送にも還元でき、テレビ局の改革にもつながると思います。それこそが、僕の目指す最終ゴールですね。

 

 

プロフィール

 

鎮目博道(しずめ・ひろみち)氏

株式会社テレビ朝日 報道局クロスメディアセンター
『AbemaPrime』プロデューサー

1992年株式会社テレビ朝日入社(当時、全国朝日放送株式会社)。総務部を経て、報道記者に。「スーパーJチャンネル」ディレクター、「ポータル」プロデューサーなどを担当。現在は報道局クロスメディアセンターで「AbemaTV」のプロジェクトに携わる。

 

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